今回は「カウンセリングの難事例の特徴その1~非常に強いネガティブ思考と諦めの心理の存在」の最後に触れた、カウンセラーによるクライエントの変化のモチベーションを高める工夫と、難事例におけるその困難さについて記述します。
クライエントの変化のモチベーションを高める試み
クライエントの変化のモチベーションを高める際には、例えば次のようなブリーフセラピーの手法が試みられることがあります。
ミラクル・クエスチョン
ミラクル・クエスチョンとはインスー・キム・バーグの開発したもので、解決志向アプローチの支持者の間では「クライエントがたちまち希望を見出す魔法のような質問」と信じられている技法です。
具体的には「もし奇跡が起こったら?」との想定の元で、クライエントに「こうなって欲しい」という願望を次々と想像してもらいます。
この技法は実際には質問の仕方を工夫して催眠効果を加味して行われるため、多少なりとも空想と現実の混同が生じ、その結果クライエントの心に、あたかもその願望が本当に実現するかもしれないとの期待が生まれます。
これがミラクル・クエスチョンで期待される主な効果です。
難事例のケースでは催眠効果がほとんど期待できない
ところが難事例のケースでは上述のミラクル・クエスチョンがほとんど機能しません。
その失敗の大きな要因はクライエントの非常に冷めた反応です。
ミラクル・クエスチョンがまったく機能しないクライエントの典型的な反応は「そんなことをしても意味がない」というものです。
ですから最初から拒否反応が生じることもありますし、もしくはカウンセラーに渋々付き合って空想を語ってはくれても、最後には「所詮空想に過ぎない」旨の反応が返って来ます。
もっともこのクライエントの認識は誤りではありません。
空想は決して現実ではないので、むしろ的を得ているとさえ言えます。
カウンセリングの成否を握るのはクライエントの適度な錯覚力の有無
しかしこのことはカウンセリングの成功要因について重要な示唆を与えています。
それはカウンセリングが効果的に機能するためには、クライエントに適度な錯覚力、具体的には生活に支障がない範囲で、現実と空想とを(あくまで心理的なレベルで)一瞬でも混同できる必要があるということです。
ところが今回取り上げた難事例のケースのようなクライエントは、あまりに冷静で少しも物事を錯覚することができない、より具体的には空想を現実と重ね合わせて希望を持つことができない。
このことが、ほとんどすべての心理療法の技法を役立たなくさせてしまっているのではないかと考えられます。
ほとんどすべてのとは、例えばイメージ療法などを用いても、イメージは所詮イメージに過ぎないものとして、現実との繋がりを一切遮断されてしまうためです。
次回は最近放送大学のテレビ講義で知ったこととして、今回触れた「現実と空想との適度な混同力」が単に心理療法の成否を左右するだけでなく、その人の人生の幸福感そのものにも非常に大きな影響を与えることについて紹介したいと考えています。