良好なセラピスト-クライエント関係は傾聴などを画一的に用いることで得られるものではない

精神療法の実証的効果の研究で明らかになったセラピスト-クライエント関係の重要性

先日受講した産業カウンセラーの資格更新講座の午後の部の精神医学の講義、とても参考になりました。
その中で今回はカウンセリングの治療的要因の一つとされる俗に関係性と略されることも多い「セラピスト-クライエント関係」について書かせていただきます。

今回の講義の中でLambertによる「精神療法の実証的効果」の調査結果が紹介されていました。
この調査によればカウンセラーにとってはがっかりなことに、治療的要因の55%はクライエント側の要因で、残りの45%がカウンセリング内で起きたことであり、その内訳は良好なセラピスト-クライエント関係が30%、特定の技法による効果が15%というものでした。

この調査結果からカウンセリングにおいてカウンセラーが効果を及ぼすことができる要因として最大のものは、ラポールとも呼ばれる良好な人間関係ということになります。

この話を聞いて、やっぱり傾聴が一番有効なのか!と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
講義のレジュメでも「面接の基本が大事」と締めくくられています。

良好なセラピスト-クライエント関係は傾聴などを画一的に用いることで得られるものではない

ですが話はそれほど単純ではありません。
ロジャーズ派の方にとって面接の基本が傾聴であることに疑いの余地はないでしょうが、他の心理療法にも実はラポールを形成するためのテクニックが存在し、しかもそれらは心理療法ごとに異なっています。

例えば私が有しているもう一つの資格であるNLPでは、ラポールの形成に有効なのはロジャーズ派の用いる傾聴のようなクライエントが受容されていることがはっきりと自覚できるものではなく、むしろ呼吸のリズムを合わせるというようなクライエントに気づかれづらい無意識的な方法であるとされています。
また私がよく援用する精神分析理論に至っては、学派ごとにセラピスト-クライエント関係に関する考え方が異なっています。

このように書きますとお察しのように、心理療法ごとに独自の関係性理論を有しているため、実は冒頭で紹介しましたLambertの実験結果のように、効果の要因を技法(心理療法)と関係性とに分けること自体が困難となります。
私見ですが恐らく実験結果のセラピスト-クライエント関係の30%という数字の中には、各心理療法の関係性理論に基づいた介入の結果も少なからず含まれているはずです。

またLambertの研究は1992年のものですが、こうした実証研究の成果もあってなのでしょうか、近年多くの心理療法の関心事がセラピスト-クライエント関係になってきています。
そしてこうした傾向が示すのは、良好なセラピスト-クライエント関係の構築は、最も重要な要素ではあっても「基本」と言えるほど簡単なものではなく、今も模索が続いているということです。

私も日々のカウンセリングで実感しておりますが、これからも心理職に携わる人々による良好なセラピスト-クライエント関係の構築への試行錯誤は続いていくものと思われます。
それは基本を押さえておけば良いというような簡単なものではありません。

Lambertによる「精神療法の実証的効果」参考文献

堀越勝・野村俊明著『精神療法の基本:支持から認知行動療法まで』

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