ダニエル・スターン「もし、赤ちゃんが日記を書いたら」書評

先日、言語能力の獲得により忘れ去られてしまう大切な感覚があるの中で、幼児期の心理的な発達の過程で、生後15か月から18か月の頃に言語自己感という心の在り方が生まれることで、体験を言語化したり比喩的なものの考え方が可能となるが、しかしそれまで可能であった「物事をあるがままに認知する」無様式知覚と呼ばれる感覚が忘れ去られてしまうと書きました。

この無様式知覚を含めて上述の記事で引用した発達心理学者のダニエル・スターンが2歳くらいまでの赤ちゃんの心のありようを一般の方にも分かりやすく書いた本を出版しています。
「もし、赤ちゃんが日記を書いたら」という本です。

本来、赤ちゃんは日記を書くどころか言葉もまだほとんど話せないのですから、ここに書かれていることはスターンの想像に過ぎません。
ですが赤ちゃんに聞いても答えてはくれないでしょうから、少しでも赤ちゃんの気持ちや考えを理解しようとすれば、こうした本に頼らざるを得ないこともまた事実です。

「もし、赤ちゃんが日記を書いたら」は無様式知覚に関心のある芸術家や、赤ちゃんの気持ちや考えが分からずお悩みの子育て中のお母さん・お父さんにも役立つのではないかと思われます。
また本書は精神分析だけでなく心理学の知識も特に必要としません。
(スターンは精神分析をバックボーンとする発達心理学者のようです。だからでしょうか上述の記事で引用した『乳児の対人世界 理論編』では、フロイトの理論の批判的検討にかなりのページを割いています)

もっとも大人の私たちのように頭の中で言葉を浮かべることの決してない非言語的な体験のみで生きている状態の心を言語で記述しているのですから、一種独特で奇妙にさえ感じられると思います。
ですがその奇妙で不思議な感覚をぜひ味わっていただければと思います。
それを拒んでしまっては赤ちゃんの心に近づくことさえできないでしょうから。

ダニエル・スターン著『もし、赤ちゃんが日記を書いたら』@通販

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