自己愛的な人が感情を持たない冷酷な人間との印象を与えるのは誇大モードにある時だけ〜自己愛講座37

自己愛講座2~もう一つの自己愛的性格(隠れ自己愛)をはじめとしたこれまでの自己愛講座では、自己愛的な性格構造を有する人には誇大モード抑うつモードという非常に異なる心理状態が存在することを紹介してきました。
そこで今回と次回の自己愛講座では、自己愛的な人は感情面に関しても、やはり誇大モードと抑うつモードでは大きく異なる点について考察します。

なお今回は自己愛的な人が誇大モードにある時の感情面の特徴を取り上げます。
恐らく一般によく知られているのは、この誇大モードにある時の感情面の特徴と考えられます。

自己愛的な人の一般的な印象は冷酷、あるいは何を考えているのか分からない

自己愛性パーソナリティ障害の診断基準の各項目からも伝わってきますように、自己愛的な人は非常に冷酷であったり、あるいはロボットのように無表情なため何を考えているのか分からないという印象を与えることが多いようです。

誇大モードにある時の人間関係を軽視する態度が冷酷な印象を与える

ですが前述のような印象を与えている時の自己愛的な人の心理状態は、誇大モードにある時と考えられます。

誇大モードにある時の自己愛的な人は、理想自己と呼ばれる理想的な自己像に同一化し、その自己像を現実の自分自身そのものと錯覚しているため、いわば無敵の状態にあります。
無敵とは、限りない才能に恵まれているがために、何でも自分一人で実現できると思い込んでいるような心理状態です。

この誇大モードにある時は、何でも自分一人でできるように思えると同時に、「理想化-価値下げ」の防衛機制が自己愛的な症状を生み出す~自己愛講座8で取り上げた「理想化-価値下げ」の防衛機制の働きにより、他者が愚かな存在に思えて仕方がないため、自分にはまったく不要なものとして人間関係を非常に軽視するようになります。
そしてこの態度が、前述のよく知られた冷酷さを生み出しているのではないかと考えられます。

加えてこの冷酷な印象は、自己中心的ゆえの共感能力が乏しさから、他人の気持ちが分からないことでも生じています。

空想上の自己像へと関心が極度に集中した心理状態が、ロボットのように無表情な印象を与える

また自己愛的な人のもう1つの印象であるロボットのように無表情なため何を考えているのか分からないということも、やはり人間関係を軽視する態度から生まれていると考えられます。

上述のように誇大モードにある時の自己愛的な人は、この世で価値ある人間は限りない才能に恵まれた自分だけであり、他者は極言すれば生きている価値のない人間とみなされています。

そしてこのようにして見下された他者とは関わるだけ時間の無駄と思えるため、まったく無関心になります。
加えてその関心は、ナルキッソスの神話と同様、もっぱら理想化された自己像へと向けられることになります。

この空想上の自己像へと関心が極度に集中した心理的な引きこもり状態では、外部環境からの刺激に対しても心を動かされることがないため感情の表出が妨げられ、これがロボットのように無表情という印象を与えるのではないかと考えられます。

ですが今回述べたような特徴は、自己愛的な人があくまで誇大モードにある時のもので、これが抑うつモードに移行すると態度が別人のように一変してしまいます。
次回はそのまるで異なる抑うつモードにある時の感情面の特徴について考察する予定です。

補足)無表情で感情が感じられない印象は、現代型うつ・非定型うつなどと呼ばれる自己愛性のうつ状態の時にも例外的に生じますが、その時も様子もよく観察すると、誇大モードにある時の傍若無人の印象とは異なり、非常に弱々しい印象を受けるものです。

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