ダン・ニューハース著『不幸にする親』

要約:子供に過干渉する母親は一見「支配欲」が強いように見えても、そのような欲求を自覚しているケースは少ないこと、および過干渉の母親が子供の周囲の環境までをもコントロールしようとする要因などについて考察。

今、NHK総合で放送されている『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』というドラマを楽しみに見ていますが、先週の放送で金子大地さん演じる主人公の純が、回想シーンとして母親から(恐らくフレディ・マーキュリーのことを指して)「QUEENなんか好きなるからゲイになってしまうんだ」旨の非難を受ける場面がありました。

実は私自身も、これと似たような経験を過去にしています。
少し前に自己分析のブログ「性自認とジェンダー観とは、どれほど相関関係があるのか?~性自認の自己分析その1」にも書きましたように、高校生の頃に根暗で男らしくない性格の原因を、母親からメンバー全員が化粧をしたイギリスのバンドJAPANを好きになったからだと非難されたエピソードです。

この2つのエピソードから、子供に対する支配欲の強い親(典型的には母親)の心理への理解が進みました。
今回の記事では、従来の見解も含めて支配欲が強く子供に過干渉する母親の心理的な特徴をいくつか取り上げてみたいと思います。

支配欲が強く子供に過干渉する母親の心理に関する従来までの見解

まずは支配欲の強い母親の心理に関する、私自身の従来の見解です。

気持ちの上では子供を自分の一部分であるかのように錯覚

これまで私は子供を支配したがる親の典型的な特徴として、多分に自己愛的な性格構造を有するため、自身の自尊感情を満たすためにハインツ・コフートが自己対象と名付けた存在を利用する強さの表れと想定していました。

これは具体的には今回のケースに即して言えば、物理的には他人であるはずの我が子を、気持ちの上ではあたかも自分の一部分であるかのように錯覚する現象で、この錯覚のために我が子の一挙一頭即が(自分の事として)気になって仕方がなくなるというものです。

そして自分の理想の実現のために(その自覚なしに)子供を巻き込んで行くというが、自己愛的な母親の過干渉の典型的なパターンと考えられます。

支配欲の存在は、ある程度の心の健全さを保っている証でもある

ただし大多数の支配的な母親には上述のような自覚はなく、むしろ愛する我が子のためを思って、必死に過干渉的な行為に及んでいることがほとんどです。

この点は私の理解では、ある程度の心の健全さを保っているがゆえの現象と考えられます。
その健全さとは、物理的には他者であると理解している点です。
ちなみにこの理解力は精神分析では現実検討能力と呼ばれ、この有無がパーソナリティ障害水準と統合失調症水準とを判別する重要な指標と考えられています。

もしこの区別さえなくなると(文字通りの意味で)自他の区別が曖昧な心理状態となり、その結果『毒になる親』の続編とも称されるダン・ニューハース著『不幸にする親』の中でも記述されている「支離滅裂な親」のような状態となります。
そしてその親の影響に晒される(翻弄される)ことで、子供の心にも激しい混乱が生じるため、その親子関係は支配-従属関係というよりも、そのような構造さえ存在しないカオスのような状態に近づいてしまいます。
これは自分が確かにこの世に存在していることさえ確証が持てなくなるような、恐ろしい心理状態です。

この意味で、母親の心がある程度健全で現実検討能力までは損なわれていないがゆえに、他者である我が子を支配するという現象が起こり得るのであり、しかしその支配の感覚が乏しいのは既述のように気持ちの上では自他の境界が曖昧になっているからではないかと考えられます。

過干渉な母親の多くは支配(コントロール)欲求を明確に抱いているわけではない

最後に自己愛的な母親による過干渉は、一般的には支配欲求あるいはコントロール欲求の表れと解釈されながらも、これまで述べて来たようにそのような欲求を明確に抱いているわけではなく、むしろ別の要因から生じていることが推測されます。
この点について前述のニューハースも、子供を不幸にしてしまう親の厳しいコントロールを当人の不安に基づくものと解釈しています。

もちろん子供を支配することに動機づけられているような親もいるにはいるでしょうが、そのような親の典型は、他人に対して力を行使することで気分が高ぶるような反社会性パーソナリティの親であり、またそうした親は母親よりも父親に多いように思えます。

次のページでは、今回の仮説を踏まえつつも、支配欲求の強い母親の多くが子供の周囲の環境までをもコントロールしようとする要因について考察します。

参考文献

ダン・ニューハース著『不幸にする親 人生を奪われる子供』講談社+α文庫、2012年

ダン・ニューハース著『不幸にする親』
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