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ETV特集「それはホロコーストのリハーサルだった~障害者虐殺70年目の真実」感想~信念の強さの恐ろしさ

先週、NHKEテレのETV特集「それはホロコーストのリハーサルだった~障害者虐殺70年目の真実~」という番組を見ました。
この番組は以前に同局の「ハートネットTV」で3回に渡って放送された番組の編集版のような内容ですので再放送を見るような心構えでしたが、それでも衝撃的な内容でした。

医師が率先して行った障害者の大量殺戮「T4計画」

番組によればホロコースト(ユダヤ人の大虐殺)に先立ち、20万人ものドイツ人の精神障害者や知的障害者、回復の見込みがないとされた病人たちがガス室などで殺害され、さらにそれはナチスではなく精神科医ら医師たちにより率先して行われたそうです。

より詳しくは、当時はダーウィンの『進化論』を援用した優生学と呼ばれる「生物の遺伝構造を改良する事で人類の進歩を促そうとする科学的社会改良運動(Wikiより)」が注目され、医師たちはこの思想の正しさを信じて、社会に役立たない人々を抹殺することで社会をより良いものへと変えて行こうとした。
そしてこの「T4計画」と呼ばれる殺人行為がヒトラーの目に留まり支持されるが、やがてある聖職者に批判されたことで国民からの非難を恐れたヒトラーによって中止される。
しかしそれでもこの計画を諦めきれなかった医師たちは、その後もこの計画の復活を望み続けたというものでした。

憎しみではなく歪んだ社会正義や患者を苦しみから救うために虐殺が行われた

この番組の内容から、一般的な史実ではナチス主導によって行われたと考えられているホロコーストも、その行為の根拠とされる優生学に基づき最初にそのような行為を実践したのは医師たちであり、またヒトラーによって中止されられた後もその計画の復活を望み続けたことから、あくまで私見ですがその後のホロコーストにも何らかの形で関与していたことが疑われます。

さらに恐ろしいのは、このような虐殺行為がヒトラーのような恨みや蔑みによってではなく、むしろ上述の優生学に基づいた社会を少しでもより良くしたいという社会正義的な願いに加えて、患者を少しでも早く苦痛から解放したいとの願いからもたらされたことです。

番組によればT4計画に携わった医師の多くは患者に対しても非常に献身的で、しかしどんなに努力しても治療に非常に時間がかかるためにウェイティングリストに名を連ねる患者が増え続けるばかりだったため、その人々を少しでも早く苦痛から解放したいと願い殺害に及んだとのことです。

信念の強さの恐ろしさを実感

以上のようにホロコーストに先立つT4計画は医師たちの悪意ではなく、あくまで彼らなりの善意に基づき行われました。

この史実を見て感じたのは信念の強さの恐ろしさです。
信念は強ければ強いほど良いというものではありません。むしろ強すぎれば現実に心を閉ざし思想という名の空想世界へのひきこもりを生み出ししてしまいます。
一つの仮説に過ぎないことが、何物にも侵されることのない絶対的・普遍的な真理へと昇格してしまうのです。

これも病理的な自己愛の一つの姿

なお、こうした過剰な信念の強さも、私の専門の自己愛の病理的な側面の一つと考えられます。
空虚感と称される心の中が空っぽのように感じられることで生きる意味を喪失してしまうことや、自己の無価値感から逃れるために絶対的なものに魅かれ、それに邁進する自分の一生懸命な姿に酔いしれることや、あるいは理想化された対象と自己を同一視することで自己価値の高まりを感じることができるためです。

またこのような病理的な自己愛は、何も医師や医療業界に限ったものではなく広く一般に見られ、特に専門職と称される社会的なステータスを獲得した職業で起こりがちと私は考えています。
その理由については大部になりますので別の機会に譲ります。

最後にこうした悲劇が起こってしまったのは、医療業界の権限の強さゆえのことだと思われます。
病理の本質は同じでも、その業界の規模や権限など社会的な影響力が大きいほど被害も甚大となってしまうというのが私の考えです。

11月13日(金)の24時から再放送されますので、ぜひご覧ください↓
ETV特集「それはホロコーストのリハーサルだった~障害者虐殺70年目の真実」公式ページ

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