アリス・ミラー著『新版 才能ある子のドラマ』

要約:私自身もその一人だが、親の何気ない一言に対して、まるでそれに運命付けられているかのように、自らそれを体現するような人生を選び取るという、自己愛的な人の側面を紹介。

親の何気ない一言で人生が決定づけられる人々

数日前に見た著名人が思い出の地を再び訪ねる趣旨の番組にある人気女優が登場し、その女優さんが女優になったきっかけとして、父親の「女優になった良いのに」という何気ない一言を挙げていらっしゃいました。

実は私自身も同じような経験があり、私の場合は母親の「建築士になったら良いのに」という言葉でした。
関連ページ:母親の欲求の取り入れ同一視による職業選択-自由連想法による夢分析36回目

もっともその女優さんはその夢を叶え、現在もその道を着実に歩み続けているのに対して、私の場合はその道に進学はしたものの長続きせず、就職した会社も1年で辞めて別の道を歩んで行ったという違いがあります。

他人の期待を敏感に感じ取る「才能」

このようにモチベーションには大きな開きがありますが、両者に共通しているのは親の何気ない一言が自分の人生(将来)を決定づけるという点です。

こうした親の期待の影響を非常に強く受けながら人生を歩んで行く人々の有様は、以前にも紹介したアリス・ミラー著『才能ある子のドラマ』に綴られています。
以前の紹介記事の繰り返しになりますが、ここでの才能とは親や周囲の人々の期待をあまりに敏感に感じ取れてしまう、生まれ持った特性(素質)のことを示しています。

他人の期待に応えられることが何よりの喜びという人々

よく「プレッシャーに押し潰される」ということが言われますように、他人、特に親をはじめとした身近な人々からの期待は嬉しい反面、重荷に感じることも少なくありません。
なぜならそこには本当は気が進まない(したくない)のにしなければならないという葛藤が存在するため、渋々その期待に従わされているという感覚があるためです。

ところが今回取り上げ、かつ『才能ある子のドラマ』でも示されているような人々の場合は、状況が大きく異なります。
皮肉にもこの種の才能に恵まれた人は、他人の期待を敏感に感じ取るスキルを有しているだけでなく、その期待に応えることで感じられる喜びも非常に大きいため、上述の人のような葛藤を感じることがあまりなく、その結果自ら率先して他人の期待を叶えるような人生を歩みがちになります。

自己中心的かつ他人の影響に晒され続けるという自己愛性パーソナリティの複雑な心理

ちなみに『才能ある子のドラマ』では、こうした人々の性格構造を自己愛性パーソナリティと想定し、ナルキッソスの神話などを援用しつつ様々な考察がなされています。
また精神分析の主要な理論を包括的に収めた『パーソナリティ障害の診断と治療』においても、ミラーが皮肉を込めて「才能」と称したスキルを、やはり自己愛性パーソナリティの主な特徴の1つとして紹介しています。

このように自己愛性パーソナリティには、一般に流布する「自己中心的で自分勝手に振る舞う」人というイメージとは別に、その真逆とも言える自ら率先して他人のニーズに応える側面も存在するというように非常に複雑なものです。

そして『才能ある子のドラマ』の考察は、その後者の側面を色濃く反映したものであり、この点は同時期に活躍し精神分析界における自己愛研究の最大の貢献者とみなされているハインツ・コフートを凌駕するものでした。
(あくまで私見ですが、コフートの見解は良く言えばニュートラルですが、ミラーほど共感的には感じられません)

次のページでは、今回取り上げた自己愛的な人の他人のために生きる人生という側面について、さらに考察を深めていく予定です。

紹介文献

アリス・ミラー著『新版 才能ある子のドラマ―真の自己を求めて』、新曜社、1996年
ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』、創元社、2005年

アリス・ミラー著『新版 才能ある子のドラマ』
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