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TED「パトリシア・クール: 赤ちゃんは語学の天才」を見ての感想

少し前にNHKEテレで放送された「パトリシア・クール: 赤ちゃんは語学の天才」を見て感じたことを書かせていただきます。

※放送内容はこちらで視聴できます↓
TED「パトリシア・クール: 赤ちゃんは語学の天才」

言語習得には「臨界期」と呼ばれる効率的に学習できる時期が存在

最初に放送内容の概略を書かせていただきます。

内容は日本でも注目されている、言語習得の「臨界期」に関する研究です。
博士の実験によれば生後6か月から赤ちゃんの脳の中で言語の選択、つまり母国語の形成の準備が始まりますので、第二言語の習得を考えれば、この頃からその言語に触れさせることが効率的なのだそうです。
(このことはクール博士の実験でも確かめられています)

ただし注意が必要なのは単に言語に触れれば良いと言うわけではなく、それは「生身の人間の発音」であることが必要という点です。
(同じく博士の実験において、音声やビデオで第二言語を聞かせても効果がありませんでした)

ですから言語に関しては効率的な学習に適した「臨界期」が存在し、しかも少なくても赤ちゃんに関しては、言語取得には生身の人間との関わりが欠かせないようです。

効率が悪くなるだけで臨界期を過ぎても第二言語の習得は可能

もっともこれは臨界期を過ぎてからの第二言語の習得が不可能という話ではありません。
実際、博士はこの研究を「大人の言語取得」に役立てたいと述べていますし、またバイリンガルである番組ナビゲーターの伊藤穰一さんが生身の英語に触れ始めたのは渡米した2歳になってからだそうです。

ですがこういった研究成果は、英語の早期教育熱にますます拍車をかけることは間違いないように思います。

人間は生まれながらに対人関係を求めている

今回の話の中で私が特に注目したのは、赤ちゃんに音声やビデオで第二言語を聞かせても学習効果がほとんどなかった点です。
このことから推測されることを、ここから書かせていただきます。ですからここから先は私個人の見解です。

私見ですが赤ちゃんに音声やビデオで第二言語を聞かせても学習効果がほとんどなく、一方実際に人間が赤ちゃんに同じ言語で話しかけた場合にはその言語の第二言語としての学習が進んだということは、赤ちゃんにとって重要なのが言語習得よりも「人との関わり」の方にあるからではないかと思われます。

よく人間は社会的動物と言われますが、このことに関して精神分析家のロナルド・フェアベーンが「人格の精神分析学的研究」の中で「人間は生まれながらに対象希求的」ということを書いています。
ここでの対象とは他者を意味しますので、これは人間は生まれた瞬間から他者との関わりを求める存在であるということです。

このフェアベーンの考えの正しさは、その後の発達心理学者のダニエル・スターンらの研究によって確かめられています。
スターンらの実証研究によれば、生まれたばかりの赤ちゃんはまだ視力が弱く視点が定まらないにも関わらず、そのでも外界に強い興味を示し、特に人間の顔に特異的な反応を示すそうです。

これは恐らく親などの重要な他者のケア無しでは生きていけない状態で生まれてくる人間にとって他者の存在は不可欠であるがゆえに、その他者を求める傾向を本能的に有して生まれて来るからではないかと思われます。

他者との関係促進の「手段」として言語が学習される

そしてその生存にとって欠かせない他者との関係を促進するために様々なものを相手から貪欲に吸収し、言語はその中でも最も重要な手段の一つとして学習されるのではないかと考えられます。
なぜなら言語によるやり取りが最も的確に意思疎通を行える手段であるためです。

以上が赤ちゃんに人間との関わりの中でのみ言語の学習能力が働き、無機物である放送機器では効果がなかったことへの私なりの見解です。

参考文献

ロナルド・フェアベーン著『人格の精神分析学的研究』、文化書房博文社、2003年
D.N.スターン著『乳児の対人世界 理論編』、岩崎学術出版社、1989年

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