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男女間のあらゆる格差や差別の解消を目指すジェンダー平等へのポストモダニズムの影響

要約:男女間のおよそあらゆる差異を人為的なものと考え、その解消を目指すジェンダー平等という思想の背景には、人格形成の要因のすべてを社会からの影響と考えるポストモダニズム的な発達理論があるのではないかと考えられる。

男女間のあらゆる格差や差別の解消を目指すジェンダー平等という思想

前回「家事の分担」に関する記事を書きましたが、ここで取り上げた家事の平等な分担を目指す社会の動きは、日本に今なお存在する、性別役割分業による女性の不利益を是正する動きの1つと考えられます。

またこのような男女間の格差は、性役割(ジェンダー・ロールの訳語)の存在が主な原因と考えられているためか、男女の格差の解消に加えて、それを生み出している性役割自体も解体すべきとの考えも存在するようです。

さらにこの考え方の中には、男女の役割に関する固定観念のみならず、「男らしさ」「女らしさ」といった性に基づく価値観の存在自体を問題視し、それをなくすことを目標とする思想も存在します。

このようにジェンダー思想の中には、男女間に存在する生物学的な要素以外のあらゆる差異の解消を理想とする考え方が存在するようです。

こうした思想はジェンダー平等と呼ばれるようですが、ではなぜ男女の間に何らかの差異が見られると、それらが格差不平等とみなされるのか、その理由を私なりに探ってみると、社会のメカニズムのみならず人間の心の発達に関する過程をも視野に入れることで了解可能な仮説を導き出すことができました。

それは社会のメカニズムと個人の心理面の双方に対して、ポストモダニズムと呼ばれる思想の影響が深く浸透し、そこからおよそあらゆる点で差異の生じない社会を目指す考えが生まれてきたというものです。
今回はそのロジックを紹介いたします。

ポストモダニズムの特徴

Wikipediaによれば、ポストモダニズム(postmodernism)とは「進歩主義や主体性を重んじる近代主義や啓蒙主義を批判し、そこから脱却しようとする思想運動のこと」を指しますが、その思想の特徴はケン・ウィルバーの『インテグラル理論』に記載された次の主張に示されています。

全ての行動は文化に依存した相対的なものであり、社会的に構築されたものである。

このポストモダニズムの主張は、私の理解では、個人のあらゆる行為は、主観的には自らの意思で行っているように思えたとしても、実際は社会からの強い影響の元に生まれたものであるというものです。

補足) ポストモダニズムの定義に関しては「文化に依存」の代わりに社会的な文脈により決定という言い回しをよく見かけますが、意味するところはほぼ同じと考えて良いと思います。

この主張の影響は、例えば西欧の消費行動を分析したジャン・ボードリヤールの『消費社会の神話と構造』における次の記述にもみられます。

消費者は自分で自由に望みかつ選んだつもりで他人と異なる行動をするが、この行動が差異化の強制やある種のコードへの服従だとは思ってもいない。

ここでは前述のポストモダニズムの定義にある「主体性を重んじる近代主義や啓蒙主義を批判し、そこから脱却しようとする」スタンスが、消費に関する主体的な選択行動の幻想性という形に反映されています。

なおウィルバーの文献では「行動」となっていますが、他の文献では思考にも同様の状況を想定しているものがあり、またのちのページで再び取り上げるジェンダー平等思想の中には、個人の価値観も社会から刷り込まれたものに過ぎないと考える立場が存在することから、社会によって構築されるのは行動だけでなく思考も含まれると考えるのが妥当と考えられます。

したがってポストモダニズムでは、極論すれば個人のオリジナリティなるものは何一つ存在しない、それほどまでに社会の影響力は絶大であると考えられているのではないかと推測しています。

次のページでは、このポストモダニズムの思想をそのまま人間の心の発達理論に当てはめるとどのような展開になるのか、私なりの考えを提示する予定です。

参考・引用文献

三浦玲一、早坂静著『ジェンダーと「自由」: 理論、リベラリズム、クィア』、彩流社、2013年
ケン・ウィルバー著『インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル』、日本能率協会マネジメントセンター、2019年
ジャン・ボードリヤール著『消費社会の神話と構造 新装版』、紀伊國屋書店、2015年

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