怒りの投影(投影同一視)による正義感からの批判と正当化-精神分析

まるで正義感に駆られるかのようにして誰かを批判して傷つけてしまうとき、精神分析(特に対象関係論)ではそれは投影同一視とスプリッティングという心の働きによって世界を善と悪とに二分してしまっているためと考えられています。

批判:

数日前のTwitterのやり取りで気づいたことを書かれていただきます。それは批判についてです。
私たちは何か間違っていると思うことがあれば、それに対して批判的な考えや気持ち(怒り)が生じ、それを時にはその気持ちを抑えられなくなって表に出したりします。
ここまではよくあることですが、私は時々これとは違った形の批判的な考えや気持ちを感じることがあります。一種の正義感のようなものを伴った批判的な考えや気持ちです。例えば次のようなことです。

正義感を伴った批判:

ある飲食店に初めて入った時のことです。残念ながら、そこの料理はとても不味いものでした(T_T)
腹を立てた私はこのことをブログに書こうと思いました。しかしそれは謂わば誹謗中傷のようなものですから躊躇いも同時に感じ、そのため最初のうちはできるだけ失礼にならないように気を付けながら文章を作成していきました。
しかし書いているうちに私に中に次のような考えが生じてきました。「いや待てよ。こんなに不味い料理を食わせる店が世の中にまかり通ってよいはずがない。むしろこの事実を知らせないと第二第三の被害者が増えるだけだ。何とかしなければ!」
こうして私は最終的にそのお店のメニューを酷評する内容のブログを投稿したのでした。あくまで正義感から。

怒りの投影(投影同一視)による正義感からの批判:

上述の私の心理状態は精神分析(特に対象関係論)の投影同一視という心の働きで説明することができます。

投影同一視とは?

投影同一視とは、ある人の心の中にネガティブな考えや感情が生じ、その人がその苦痛に耐えられないために、そのネガティブな考えや感情を自分以外の何か(人・物・組織・社会など様々な対象)に投げ入れて、あたかも自分以外の存在がそのネガティブな考えや感情を持っていると錯覚する心理状態のことを指します。
ネガティブな考えや感情を持っているのは自分ではなく別の存在だと思い込むことで、そのネガティブな考えや感情を持っている感覚から生じる精神的苦痛から逃れるわけです。

怒りの投影から生じた正義感

この投影同一視の理論に照らしますと私の行動は次のように解釈することができます。
「怒り」という感情には一般的に「良くない感情」というイメージがあるため、私たちは怒りの感情を露わにする度に、それを厳しく咎められたりする等の体験を積み重ねながら成長していきます。そのため大部分の方は怒りを感じること自体に罪の意識を感じ苦しむことになります。
私自身も怒りを感じることに対して強い罪悪感を感じる人間のため、その怒りの感情を意識から締め出してしまうことがよくあります。何時間も経ってから「あのとき腹が立っていたんだ」と気づいたりすることがあるほどです。
そのような私ですから恐らくブログを書いているうちに自分の怒りの感情に耐えられなくなってしまったのでしょう。そしてその耐え難い怒りの感情を、そのお店とそこで働く人に投影したのだと思います。
すると怒りというネガティブな感情を投影された、そのお店とそこで働く人々がとんでもなく悪い存在に思えてきます。そしてそこから、その悪い奴らを懲らしめなければならないという使命感や正義感のような感覚が生じたのだと思われます。

正義感を後押しする良い自分と悪い世界とのスプリッティング(分裂):

ここまで書いてきて、もう一つ気づいたことがあります。それは先の私の心の中で「良い自分と悪い世界」というような、非常に極端な構図が出来上がっていることです。このような物事を善悪で完全に二分してしまう心理は、精神分析ではスプリッティング(分裂)と呼ばれています。
このスプリッティング(分裂)の理論に照らせば、私は怒りという悪い感情を持っている悪い自分という状態に耐えらず、その悪い感情を相手に投影することで、そんな悪い感情など微塵も持っていない良い自分に成り代わることで苦痛から逃れたということになります。

投影同一視とスプリッティング(分裂)による攻撃性の正当化:

このように投影同一視やスプリッティング(分裂)という心理は世界を善と悪とに完全に二分し、その結果自分の攻撃性が完全に正当化されます*。なぜなら自分が完璧に正しく相手が100%間違っているのでしたら、そのような悪い存在を攻撃することに罪の意識を感じる必要はなく、むしろそのような悪い存在を野放しにしておくことの方にこそ罪悪感を感じるためです。
*このような攻撃性の正当化は戦争においても見られます。ほとんどの場合、戦争を仕掛ける側の人々は自分の私利私欲のためにとは思いません。あくまで悪いのは相手の方です。そしてそのような理由づけには事欠きません。
ではどうしたら、このような戦争にまで発展してしまうような病理的な心理を防ぐことができるのか、ということを考えなければなりませんが、それは次回までの宿題とさせていただけますでしょうか。

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