ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』

新型コロナウイルスの特性に反して、特定の職種からの感染のみを極度に恐れる心理の考察

数ヶ月前から新型コロナウイルスの感染リスクに関して不思議に感じる報道内容や巷の光景をたびたび目にします。
今回はそれらの現象が生じる要因を説明できる精神分析の仮説を紹介致します。

目次:
新型コロナウイルスの感染リスクに関する人々の矛盾した反応
特定の職種の人々に対する極度の感染不安
その一方で感染リスクなどまるで心配がないかのような振る舞いも存在
感染を極度に恐れる人々と、不安をほとんど感じない人々とが存在?
矛盾した態度の要因と考えられるスプリッティングの説明(2ページ目)
スプリッティングを用いた矛盾現象の解釈(3ページ目)

新型コロナウイルスの感染リスクに関する人々の矛盾した反応

まずは私自身が不思議に思う現象を整理してお伝え致します。

特定の職種の人々に対する極度の感染不安

新型コロナウイルスの感染が広がり始めた時期、メディアでは他人との接触頻度が高いと想定される人々が関わりを拒否されたり、さらにはその人々の子供までもが同様の扱いを受けていることが盛んに報じられていました。

また自粛要請に反する行為を行う人々に対する110番通報も急増しているようです。
「外でいちゃついている」…コロナ関連の110番急増 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

新型コロナウイルスの感染リスクに関しては、たびたび感染症の専門家から、非常に感染力が高く、なおかつ大多数の人は感染しても症状が出ないため、無自覚に感染を広げてしまう危険性が指摘されています。
このため上述の人々の反応も、このような新型コロナウイルスの感染力の高さを危惧したものと考えられます。

その一方で感染リスクなどまるで心配がないかのような振る舞いも存在

ところが巷では、同時に新型コロナウイルスの感染などまるで心配していないかのような光景をよく目にします。
例えば公園などには普段以上の数の人が訪れ、マスク越しとはいえ至近距離で長時間会話を楽しんでいます。また多くの子供はたぶん嫌がるからでしょうか、マスクをせずに遊んでいます。

また飲食店に関しても、来店者の大半がグループ客で、このため至近距離で酒を飲みながら会話を楽しむ姿をよく目にします。
しかもこのような光景は緊急事態宣言の解除以前から見受けられました。たびたび会食による集団感染が報じられていたにも関わらずです。

以上のように新型コロナウイルス感染症に関しては、一部の職種の人々に対するような、近づいただけで感染することを恐れる心理が存在する一方で、3密状態であってもまるで不安を感じていないかのような心理が存在しています。

感染を極度に恐れる人々と、不安をほとんど感じない人々とが存在?

もっともこのような状況は、感染を極度に恐れる人々と、不安をほとんど感じない人々とが存在しているからと考えることもできます。
ただその場合は、例えば前者の方の中には、他人との接触をすべて拒み完全にひきこもる状態に陥ってしまったり、さらには新型コロナウイルスが物体の表面上でもしばらく生息できることから、物を触ることもまったくできなくなり、その結果生命の危機に瀕するケースが生じることが予想されます。

しかし調べてみても、すでにひきこもりの状態にある人の心に変化が生じていることを報じる記事は存在しても、自粛要請を契機として深刻なひきこもりの状態に陥る人が増えていることを示す情報は一つも見当たりませんでした。

したがって新型コロナウイルスの感染リスクに対する両極端な反応は、少なからず同じ人の心の中で
生じているのではないかと考えられます。

実はこのような矛盾した心理が一人の人間の中に生じる状況を上手く説明できる理論が精神分析には存在します。
次のページではその理論を紹介いたします。

ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』
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