NY州の新型コロナウイルスに対する抗体14%形成の報告を「免疫獲得」の証と認識する日本のメディアに懸念

先週あたりから、新型コロナウイルスに関して、抗体検査の必要性を報じるニュースが増えて来ていますが、今回はこの件について懸念していることを書かせていただきます。

目次:
ニューヨーク州で新型コロナウイルスに対する抗体数が予想を上回る数字に
専門家の間では調査結果を疑問視
新型コロナウイルスがRNAウイルスであることの恐ろしさ
日本のメディアや経済界では自粛撤廃の機運が急速に高まっている

ニューヨーク州で新型コロナウイルスに対する抗体数が予想を上回る数字に

きっかけは最も感染が広がっているNY州で、検査の結果14%の人に抗体が見つかったことです。
NY州民3000人検査で14%に抗体確認 新型コロナウイルス感染270万人か | ニューズウィーク日本版

抗体とは病原体などが体内に侵入した際に、次回からその病原体を素早く除去できるような仕組みが体内に備わることを指します。
このように抗体とは病原体に感染しないと形成されないものであるため、NY州全体で270万人もの人がすでに新型コロナウイルスに感染しているとの推測がなされているわけですが、これは同時にそれだけ多くの人が感染しても大事には至らなかったことを示しています。

このため記事では、抗体検査の結果から新型コロナウイルスの致死率は0.5%と想定されていたよりも遥かに低く、また感染しても多くの人が軽症もしくは無症状のまま乗り切り抗体を形成できていることから、速やかに経済活動を元の状態に戻す基盤が整いつつあることを示唆しています。

専門家の間では調査結果を疑問視

ところが同じニューヨーク州の抗体検査の結果をより慎重に報じているNHKの記事にも書かれているように、同検査結果は感染症の専門家の間ではWHOの調査結果の3%と余りにかけ離れており、なおかつ調査の手法が詳しく公開されていないことから疑問視されています。

さらに抗体が形成されたとしても、それで免疫を獲得したかについても現時点では未知数としています。
実際、お隣の韓国では100例以上の再発症が報告されています。
韓国で「再陽性」163人 隔離解除から平均13.5日 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

加えて新型コロナウイルスの抗体検査については、その精度の低さも指摘されているようです。
コロナウイルス抗体検査の方法、及びメリットと課題 – CUBE MEDIA

新型コロナウイルスがRNAウイルスであることの恐ろしさ

さらに新型コロナウイルスが恐ろしいのは、このウイルスがRNAウイルスであることです。

RNAウイルスの特徴は、突然変異によって次々と遺伝子の情報を変化させることです。
このため現時点で既に30種類以上の新型コロナウイルスの型が発見されているそうです。
感染力も毒性も突然変異する新型コロナ「強毒種は270倍のウイルス量」|Yahoo!ニュース

私の知る限り抗体とは、その時体内に侵入した特定の型の病原体に対してのみ形成される可能性があるもので、したがってあらゆる新型コロナウイルスに対応できるものではありません。
「新型コロナウイルス」とは人間が考え出した総称に過ぎないのです。

同様の理由から、RNAウイルスの一種である新型コロナウイルスでは、治療薬やワクチンの開発も困難なことが、同記事に加えて日経バイオテクでも指摘されています。
ワクチンが効かない?新型コロナでも浮上する「抗体依存性感染増強」:日経バイオテクONLINE

日本のメディアや経済界では自粛撤廃の機運が急速に高まっている

以上のような状況にも関わらず日本のメディアでは、冒頭のニューヨーク州の抗体検査の結果を援用する形で、経済ニュース番組を中心に解説委員や人工知能の著名な専門家などから「抗体形成=新型コロナウイルス全般に対する免疫獲得」という楽観的とも思える認識の下で、早期の自粛撤廃を求める論調が急速に増えています。

しかしこのような日本の動きは、これまでの説明から明らかなように非常に危険ではないかと考えられます。

抗体検査が必要な理由を、感染症の研究者や医療関係者が感染の広まりの把握とする一方で、経済界や政府関係者などは経済活動再開の指標となると考えているようですが、次のページでは後者のような楽観的な考えが生じる心理学的な要因について考察する予定です。

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