私説:支援が難しいDV・ストーカー被害者の方の心理その1~共依存の傾向とその対応

今回は前回の記事「私説:ストーカー行為をエスカレートさせる主な要因は怒りの強さ・ストレス耐性の低さ・過去の良好な関係の理想化・願望を諦めることができないこと」の続編です。
前回の記事の予告通り、今回はストーカーにまつわる相談の中でも心理療法や支援団体による支援が難しいケースにおける被害者の方の心理について取り上げます。

なお今回述べることはDV(ドメスティック・バイオレンス)のケースでも言えることですので、まとめて論じます。
そもそも両ケースとも知人と間で生じることが圧倒的に多いため、同じ人との関係で両方の状態が生じることも少なくありません。

支援が難しいDV・ストーカー被害者の典型は共依存が疑われるケース

支援が難しいDV・ストーカー被害者の方の典型は、共依存が疑われるようなケースです。

もっとも共依存の本来の定義は、Wikiの共依存の説明にもありますように、他人の世話に没頭するなどケアに基づいた人間関係への依存状態を指し示す概念です。
しかし現在はこの概念が拡張され、内容を問わずお互いに離れがたい状態が生じていれば共依存とみなされることが多くなって来ています。

このため、この文脈から支援を拒み加害者の元を離れようとしないDVあるいはストーカーの被害者の方がいれば、それは加害者との関係に依存し、そこから離れたくない心理の表れと解釈され、よって共依存が生じているとみなされるようです。

私が相談を受けたこのような特徴を有する方々からの印象でも、背後に自己愛的なニーズが存在しているように思えることと共に、共依存のもう一つの特徴とされる他人のコントロール欲求の強さに類する心理を感じます。
今回は最初に共依存について触れましたので、その点について重点的に考察します。

「この人を救えるのは自分しかいない」との信念

支援が難しいDV・ストーカー被害者の方からよく聞くことの一つとして「この人を救えるのは自分しかいない」との強い信念です。
そのためカウンセリングの相談内容も、加害者である相手の心をもっと健全な状態に変えるための方法や、そのためのご自身の対処方法などです。
これらの相談を精神的・肉体的虐待や、執拗なストーカー行為を受けている当事者の方から受けることが少なくないのが実情です。

ところDVやストーカー支援のセオリーでは、まずは一刻も早く被害者の方を加害者から引き離し身の安全を確保するというものです。
ですからシェルターと呼ばれる支援団体などを訪れても、加害者の元から速やかに離れるように助言を受けたり、そのための場所を提供してくれることなどが支援の内容のようですので、共依存状態にある被害者の方には役立たないようです。
(実際、私が経験した難事例のケースの多くでは、すでにこれらの支援団体の元を訪れ、ご自身のニーズと合わなかったことがカウンセリングを受けるきっかけとなっています)

また私自身も当初は上述のDV・ストーカー支援のセオリーから抜け出せず、前回の記事で述べたようなストーカーの加害者の心理を説明することで実情をご理解いただき、何とか考えを変えてもらえるように説得を試みましたが、その試みは対立を招くだけで、相談事例の多くが中断してしまいました。
そのため考えを改め、次に述べる共依存状態の背後に働く自尊感情に関わる心理に即してカウンセリングを進めるように方針を変更しました。

共依存の背後で働いているのは、相手の役に立てる、必要とされていることによる自尊感情の高まり

DVやストーカーの加害者の方に共依存の傾向が見られる場合に、その背後で働いていると考えられる心理は「この人を救えるのは自分しかいない」との信念からも推測できる、相手の役に立てる、あるいは必要とされていることによる自尊感情の高まりです。
それも身の危険を感じてもなお減じることがないほど非常に強い欲求です。

マズローの欲求階層説で言えば、安全欲求よりも社会的欲求の方が遥かに高い方と言えます。

自尊感情の低さは誇大感により補われている

なおこのような欲求を精神分析では救世主願望と呼ぶことがありますが、これは「自分しかいない」との部分から特別意識を感じ取り、その自己愛的な誇大感を言い表したものです。
ですがそのような誇大的な欲求は、自尊感情がほとんど満たされることがないことの飢餓感から生まれた極端な反応とも考えられます。

ですから逆説的ですが、たとえ命がけのことであったとしても誰かの役に立つ、あるいは必要とされることがその人の生きる支えとなっているため、その支えを奪うような介入が抵抗を招いたものと推測されます。

情報を伝えて判断は被害者の方にお任せする

以上のような反省から現在の私は、同じようなケースに遭遇した際には、前回の記事で述べたようなストーカーの加害者の心理を説明する点まではこれまでと同様ですが判断はお客様にお任せする、つまり相手の変化を簡単には望めそうにないにも関わらず、お客様の「この人を救えるのは自分しかいない、だから何としても彼(彼女)を変えたい」との信念が変わらないのであれば、実情を踏まえた上で覚悟を持って臨んでいただくように方針転換しています。

このアプローチのメリットは、対立を避けられることに加えて、加害者の心理を理解していただくことで、了解可能なこととして幾らかでも心に余裕が生まれたり共感の余地が生まれることなどです。
何も分からなければ、相手がいつまで経っても思い通りに変化してくれないことへの怒りや、変えられない自分への苛立ちばかりが生じてしまいます。

次回はDVやストーカーの加害者の方の支援が困難な別のタイプのケースについて考察する予定です。

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