私説:ストーカー行為をエスカレートさせる主な要因は怒りの強さ・ストレス耐性の低さ・過去の良好な関係の理想化・願望を諦めることができないこと

先日、NHKEテレの「ハートネットTV」で2夜にわたりストーカーの加害者の心理について特集されていました。
第1夜の「ストーカー 加害者たちの告白(1)」では警察に通報あるいは逮捕にまで至った人々へのインタビューが行われ、そこではストーカー行為がどんどんエスカレートしていく様子が語られていました。

以前にも少し触れたことがありますが、私は若い頃に警察沙汰にまではなりませんでしたが、今の法律に照らせばストーカー行為に当たることを行ってしまいました。
ですので自然と当時の自分と比較しながら番組を見ていました。

その中で当時の私と大きく異なる点として特に印象に残ったのは、怒りの強さ・ストレス耐性の低さ・過去の良好な関係の理想化・願望を諦めることができないことの4点です。
以下、順次詳しく見ていきます。

※以下の記述の理解のために当時の私が行った主なことを列挙しますと、電話・手紙・贈り物・家まで行く(ブザーを鳴らすまでは至らない)ことなどです。
これらを回数は正確には覚えていませんが、家に行ったことは一度、それ以外を数回ずつ行ったと記憶しています。

ストーカー行為をエスカレートさせる主な要因

被害感情がもたらす怒りの強さ

ストーカー行為をエスカレートさせると考えられる主な要因の1つめは怒りの強さです。

怒りとは自分が何らかの意味で傷つけられたと感じた時に感じる感情です。
ですからそれが非常に強いということは、同時に被害感情も相当強く感じていることをも意味しています。

そのため自分の方が被害者だとの認識から、自らの行いは深く傷つけられたことへの当然の報復であると正当化され、それゆえ自制心が働きづらくなり行為がエスカレートして行くのではないかと考えられます。

自己愛的ゆえに自分の傷つきに敏感かつ他人の心の痛みには無関心

ですが周囲の人の目には、被害を受けて苦しんでいるのはストーカー行為を受けている人のように思えるはずです。
このギャップから、ストーカー行為をどんどんエスカレートさせてしまう人は、自分の傷つきには非常に敏感である反面、他人の心の痛みにはまったく無関心という自己愛的な性格傾向を強く有していると推測されます。
しばしば殺人犯が「一番可哀想なのは自分だ」と供述することがありますが、これなども重症域の自己愛的な心理の典型と考えらえます。

当時の私自身も、自分の想いを理解してくれない相手の方への怒りを感じなかったわけではありませんが、それでも番組登場した人のように常に怒りでいっぱいという状態ではなく、この違いを最初に感じました。

病態水準の低さがもたらすストレス耐性の低さ

ストーカー行為をエスカレートさせると考えられる主な要因の2つめはストレス耐性の低さです。

番組に登場した人にも、怒りでいっぱいの最中でも、ときどきは「やってはいけない」という罪の意識が芽生え、そのため願望との間に葛藤を感じる瞬間があったようです。
しかしその苦しさから逃れるために、結局は願望充足へと走ってしまったようです。

以前に「病態水準の違いによる、陰口や噂話の知覚や解釈の仕方の変化」の神経症水準の項目で触れましたように、この何かをしたい、しかしやってはいけないという2つの相矛盾する気持ちを同時に抱える(自覚する)ことは非常に辛いものです。
しかしその辛さに耐えなければならない時が人生には度々あり、その能力がストレス耐性と呼ばれるものです。

ですから番組登場した人々は、このストレス耐性が非常に低く、葛藤にほとんど絶えられない状態にあったことが予想されます。
なぜなら現在はストーカー行為に関する知識が以前より遥かに広く普及しているため、通常は犯罪を犯すことに対する非常に強い抑止力が働き、これは神経症水準より重症域のパーソナリティ障害水準の人に対しても期待できるものだからです。

このことから番組の警察が関与する事態にまで至ってしまった人々は、パーソナリティ障害水準の中でも精神病水準に近いほど重症域に位置していたと推測され、対してそこまで至らなかった私は同じパーソナリティ障害水準でも神経症水準に近く、そのため行為のエスカレートをギリギリのところで防ぐことができたのではないかと考えられます。

過去の良好な関係の理想化が期待を生じさせる

ストーカー行為をエスカレートさせると考えられる主な要因の3つめは過去の良好な関係の理想化です。

少なくても番組登場した人々は被害者の方との間に、束の間でも良好な人間関係が存在したようですし、私の場合も同様でした。
ただ問題なのは、その関係が過度に理想化(現実以上に美化)されると共に、その理想的な関係を努力を惜しまなければ必ず取り戻せると確信されていることです。

補足)この「努力を惜しまなければ」の部分については別途記事にする予定です。

ですからストーカー行為とは傷つけれたことへの報復行為だけではなく、このかつての理想的な関係を取り戻すための努力も含まれており、むしろ後者の方が主眼にあるという点が重要です。
たびたびの嫌がらせは上述のように傷つけられたとの思いからの報復であり、決して相手を苦しめること自体が目的ではないのです。

またこの理想化について番組では触れられていなかった点を補足しますと、私の場合、相手の方の戸惑いの表情を「照れ」などと解釈していました。
実に都合の良い解釈ですが、これなどは「関係を修復したい」との願望による歪曲の表れと考えられます。

願望を諦めることが、どうしてもできない

ストーカー行為をエスカレートさせると考えられる最後の要因は願望を諦めることができないことです。
ちなみにこれは「なかなかできない」ということではなく「どうしてもできない」と言えるほど非常に強いものです。
番組に登場したある方は、連絡できないことの苦しみを「息ができないことに等しい苦しみ」と話していました。

ですからそれを制止する心の働きとの間に一時的に葛藤を感じたとしても、それが抑止力とはならず、結果的にひたすら願望充足へと突き進んで行くこととなり、警察という外部の強力な力によってしかその動きを止めることができなかったのではないかと考えられます。

またそれに対して私のケースの場合は、繰り返し相手の方から伝えられる拒否の態度をある時点から直視せざるを得なくなり、その辛さに耐えられなくなって諦めがついたのだと思われます。

最後に今回の番組で取り上げられたケースは、いずれも警察の介入にまで至ってしまったとはいえ最終的には解決に至ったものです。
しかしご承知のようにストーカー行為は被害者の方が死に至ることも少なくありません。
そしてそうした場合にもマスメディアでは警察の不手際に焦点が当てられがちですので、ストーカー行為というものが何の落ち度もない人が一方的に酷い目に遭わせられるイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

ですが私が仕事で加害者の方と接して感じたことは、それとは少し異なっています。
次回はすべて方に当てはまるものではありませんが、ストーカー行為に遭われた方からの相談の中でサポートが難しかったケースに共通して見られる点をお伝えしたと考えています。

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