前回「私説:独りでいると孤独感を感じるのは近代以降の人間の特徴」という記事を書きました。
実はこの記事は、近代以降の人間は過度に人間関係に依存してしまっているため、中世以前の心の状態に戻る必要はないまでも、その時代の人々の心性を少し取り戻しバランスをとる必要があるのではないかとの思いから書きました。
今回はそのことを、私自身の臨床経験を踏まえながら書きたいと思います。
コミュニケーション改善の提案がまったく功を奏さないケースに直面
カウンセリングの仕事を始めてから12年経ちますが、相談内容の過半数は人間関係に関することで、その中には「人との繋がり」自体が望んでも上手く形成できないケースもあります。
当初そうした方には、コミュニケーション・スキルだけでなく、メディアなどから発信されるコミュニティ作りの成功事例なども参考にしながら様々な提案をしました。
しかし残念ながら、その大部分がクライエントには役立たず、そのためかえって絶望感を高める結果となってしまいました。
今思えばコミュニケーションの効果を過大視していた
アドバイスが功を奏さなかった直接の理由は次回以降に詳しく考察するとして、今思えばこの頃は、私自身が人間関係の効力を今日の世間の風潮と同じく非常に高いものと信じていました。
つまり人は孤独になると心に不調を来たし、それは誰かと繋がることで改善されるというような考え方です。
ですから当時の私は、クライエントのコミュニケーションの改善努力が上手く行かないと、それでもう打つ手なしとなってしまいました。
ですがそうなってしまった時でも、前回の記事で触れた古代や中世の人々が有していた「人以外の存在との深いつながりを感じる能力」を取り戻すことでメンタルを改善できる可能性があることを伝えることができていれば、それに興味を示し希望を持っていただける人がいたのではないかと思うのです。
この後悔の念が、前回の記事を書かせた動機の1つでした。
社会的なサポートの不足を問題視しても、すぐに当事者が救われるわけではない
最後に、今回の記事のタイトルの一部を「誰もが良好な人間関係に恵まれるとは限らない」としたことについて触れます。
カウンセラーがそんな否定的なことを言って良いのかと思われるかもしれませんが、これまでの内容のとおり、現実には色々と努力しても孤独な状態から抜け出し良好な人間関係を築くことが困難な方がいらっしゃいます。
このような実情に対してマスメディアなどを通して専門家から発せられる典型的なメッセージは社会的なサポートの不足を問題視するものです。
ですが専門家の方からそのように言ってもらったところで、当事者の方の問題がすぐに解決するわけではありません。
でしたら、いつになるのか分からない社会の変化を待ち続けるよりも、その辛さを和らげるための別の手段を探った方が良いのではないか、というのが私の考えです。
次回は、メディアなどから発信されるコミュニティ作りの成功事例は鵜呑みにすべきではないということについて書こうと考えています。