要約:ソニア・O. ローズ著『ジェンダー史とは何か』は、ジェンダー史よりもジェンダー史家個人に焦点が当てられているため、理論や考察の背景を知ることができ、これらの知見の批判的検討や相互比較がより容易になる良書と感じた。
読書文化の普及への貢献を意図した7days Book Cover Challenge、5日目に紹介する図書はソニア・O. ローズ著『ジェンダー史とは何か』です。
目次:
ジェンダー史よりもジェンダー史家個人に焦点が当てられた本
ジェンダー史やジェンダー論を主体的に学ぶ視座が得られる
ジェンダー史よりもジェンダー史家個人に焦点が当てられた本
『ジェンダー史とは何か』のユニークな点は、ジェンダー史そのものよりも、その研究者であるジェンダー史家個人に焦点を当てていることです。
その理由は、同書のまえがきと第1章でも力説されているように、そもそも歴史という概念が、各歴史家の関心や信念が反映される形で再構成されたもの、つまり客観的・普遍的な事象などではなく、たぶんに解釈の産物であるためです。
参考までに、この歴史家の関心の多様性を示す記述を引用します。
ある出来事やプロセスが、社会のある側面を変化させるために不可欠である点を示すことに熱心な歴史家がいる。
その一方で、時代を超えた連続性を生み出すプロセスを研究することに関心を持つ歴史家もいるし、過去のある特定の時期や一定期間の生活の諸側面を描くプロジェクトに傾倒する歴史家もいる。(P.5)
したがって歴史家の数だけ、異なる歴史が存在すると言っても過言ではないでしょう。
そしてこのような事情から、ジェンダーに関する歴史や理論を適切に理解するためには、その主観的な性質を明らかにする必要があると考え、ジェンダー思想の歴史的変遷よりも、それを生み出した個々人の精神に重きを置いた同書が記されることになったようです。
ジェンダー史やジェンダー論を主体的に学ぶ視座が得られる
ジェンダー史よりもジェンダー史家個人に焦点が当てられた『ジェンダー史とは何か』を読むことのメリットは、ジェンダーに関する歴史的考察や各ジェンダー論が生まれた背景を知ることができる点です。
理論や考察の背景を知ることで、その内容をより深く理解できるのみならず、俯瞰的な視座が得られ、それぞれの研究成果が相対化されてもいきますので、これらの知見の批判的検討や相互比較がより容易になります。
これがジェンダー史よりもジェンダー史家個人に焦点を当てるというユニークな構成の『ジェンダー史とは何か』を読むことの最大のメリットではないかと考えられます。
紹介文献
ソニア・O. ローズ著『ジェンダー史とは何か』、法政大学出版局、2017年
補足) 歴史が解釈の産物である点は、ヘイドン・ホワイトの『歴史の喩法』を通じて知りました。
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