『情動はこうしてつくられる─脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』感想

今SNS上で「7days Book Cover Challenge」という、7日間に渡ってお勧めの本を紹介するイベントに参加しています。
今回はその3日目として、リサ・フェルドマン・バレット著『情動はこうしてつくられる─脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』という心の科学に関する本を紹介させていただきます。

情動とは感情のこと

まず本のタイトルにある情動という用語はあまり馴染みがないかも知れませんが、これは怒りや悲しみ、喜びなどの感情ことだと思っていただいてけっこうです。

感情は本能的なものではない可能性を示唆

『情動はこうしてつくられる─脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』では、その様々な感情が生まれ持った本能的なものではなく、誕生後に周囲の環境からの影響で徐々に学習されていくものであることが実験データを元に示されています。

これはつまり私たちが怒りや悲しみ、喜びなどを感じるのは人間として自然なことではなく、親との関わりをはじめとした周囲の環境との相互作用の中で育まれた能力であるということを意味していると考えられます。
したがって同じような体験をしても抱く感情は人それぞれということになります。

ただこの検証結果はこれまでの常識とあまりにかけ離れているため、当初は同じ領域の研究者から相当激しい批判を受けたようです。

情動理論は犯罪対策にも影響を与える

『情動はこうしてつくられる─脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』のもう1つの特徴は、情動のメカニズムの探求のみならず、情動に関する仮説がもたらす社会への影響についても考察がなされていることです。

例えば序章で紹介されている空港や、あるいは店舗の警備など不特定多数の人が出入りする場所では、近年監視カメラから得られたビッグデータやAIなどを駆使して犯罪を起こしやすい人の表情や仕草を同定し、その特徴を元に疑わしい人物を絞り込む手法が急速に普及しています。
そしてこれらの手法では、著者のバレット博士が古典的情動理論と名づけた、特定の感情は人類に共通した特定の表情や仕草を表出させるとの仮説に基づいています。

しかし前節で示した博士の検証によればこの仮説は誤りであり、したがって古典的情動理論に基づく犯罪対策には無実の人を拘束したり、その逆に要注意人物を見逃してしまうリスクがあることになります。
実際、事例の空港警備ではその種の誤認が相次ぎ、この手法の導入は取りやめになってしまったそうです。

最後に『情動はこうしてつくられる』は、臨床心理以外の心理学や脳科学には疎い私でもスラスラ読めましたので、専門的な内容を扱いながらも非常に分かりやすいはずです。
また文体も「です・ます体」で書かれています。

加えて価格も600ページを超える分量にも関わらず3,200円+消費税と非常にリーズナブルですので、おそらく科学の専門家以外の方にも読んでいただけることを想定しているのではないかと推測されます。

今後も折を見て、同書が提示する知見が臨床心理などに与える影響を記事にしたいと考えております。

紹介文献

リサ・フェルドマン・バレット著『情動はこうしてつくられる─脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』、紀伊國屋書店、2019年

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