NHKスペシャル「半グレ 反社会勢力の実像」を罪悪感・羞恥心・損得勘定・共感能力から考察~自己愛講座51

要約:NHKスペシャル「半グレ 反社会勢力の実像」の内容などを元に、反社会性パーソナリティと自己愛性パーソナリティと犯罪との関連、特にその抑止力について考察。

一昨日、NHKスペシャル「半グレ 反社会勢力の実像」という番組を拝見しました。

少し前に「自己愛的な人の非共感性などの考察~秋葉原無差別殺傷事件の加藤死刑囚の言動や世間の反応を参考に: 自己愛講座49」で、自己愛的な性格構造と犯罪の関連について考察しましたが、今回のNHKスペシャルに登場した人物の多くは、秋葉原無差別殺傷事件の加藤死刑囚とは異なり反社会的な性格構造が感じられる人々でした。

しかし振り込め詐欺の「受け子」と呼ばれる人など末端の作業を担う人々には、そこまでの反社会的な性格傾向は見られず、むしろ自己愛的な印象を受けましたので、両者をまとめて自己愛講座として考察することに致しました。

また今回の自己愛講座では、これまであまり記述することのなかった快楽殺人者などとも称される反社会性パーソナリティ自己愛性パーソナリティとの比較も行いたいと考えています。

犯罪の抑止力の主な構成要素は、罪悪感(道徳観・倫理観)と恥(羞恥心)+損得勘定

まず最初のページでは、犯罪の抑止力について考察します。

幸い大半の人が刑務所に収監されるレベルの犯罪を一度も犯すことなく人生を終える一方で、そのような犯罪を繰り返す人もいます。
この両者の違いを生み出している犯罪抑止力とも言えるものの主な構成要素は、罪悪感(道徳観・倫理観)恥(羞恥心)と、それに加えて損得勘定共感能力ではないかと考えられます。

犯罪の抑止力が最も高いと考えられるのは罪悪感

これらの中で最も犯罪の抑止力が高いと考えられるのは罪悪感です。

罪悪感とは自分の中の道徳観や倫理観に反する行為を行った時や、人によってはそのようなことを考えただけで自分が罪深い人間になってしまったかのように感じる感覚で、通常は後ろめたさとして実感されます。

このように罪悪感とは内的な規範として作用するものであるため、例えば道端にお金が落ちているのを見つけた場合、たとえその人が経済的に困窮しており、なおかつ周囲に人がおらず監視カメラも見当たらなかったとしても、そのお金を盗むことに対して非常に強い抵抗力を感じることになります。
また人によっては、それ以前にそのお金を自分のものにしてしまいたいという欲求すら生じません。

以上のように罪悪感は人目の有無や状況などの影響を受けることなく安定的に働くため、最も強い犯罪抑止力を有すると考えれます。

またこうした強い抑止力は、心の中に好ましくない人間になることへの許しがたい感覚が存在することから生じると考えられ、フロイトの流れを汲む古典的な精神分析理論では、このような作用をもたらす心の構造は超自我と名付けられています。

罪悪感が乏しくても羞恥心(恥の感覚)があれば、犯罪をある程度は抑止できる

罪悪感に次いで犯罪の抑止力が期待できるが羞恥心(恥の感覚)です。

羞恥心(恥の感覚)とは文字通り「恥ずかしい」と感じる感覚ですが、その内容は自分が他者から「悪い人間」「劣った人間」「価値の低い人間」と思われることなど、あらゆる否定的な評価と関連しています。

この羞恥心(恥の感覚)と罪悪感との決定的な違いは、前者の感覚には必ず他者の目が関係しているということです。
つまり他者の目あるいは他者評価が気にならない状況では、羞恥心(恥の感覚)は決して生じないということになります。

このように羞恥心(恥の感覚)の生成は状況に左右されることから、犯罪抑止力は罪悪感よりも低くならざるを得ません。
このことを罪悪感の項目で用いた例で考えてみますと、羞恥心はあっても罪悪感は乏しい人が同じ状況に遭遇した場合、お金を盗んだことが絶対にバレないという確信が持てさえすれば、恥を掻く心配がないため、その行為は容易に実行に移されることになります。

罪悪感が欠如していると必ず犯罪を犯すわけではない

ただし罪悪感が欠如している人すべてが犯罪を犯すわけではありません。犯罪が生じるためには、そもそもそれに結びつくような欲求の存在が必要となるためです。

唯一の例外は反社会性パーソナリティの人です。この性格タイプの人は、他人や社会に損害を与えたり、あるいは暴力を振るうことなどを通して、そのような絶大なパワーを持っていると言う意味合いで自尊心の高まりを感じると考えらえているためです。

犯罪の抑止力は限定的な損得勘定

犯罪の抑止力が期待できる要素の3つ目は損得勘定です。

損得勘定とは、ある事柄が自分にとって利益になることか否かを判断することですが、この要素が犯罪の抑止力となる典型例は、犯罪を犯して捕まれば「刑務所に入れられる」「前科者になることで、出所後も生きづらくなる」などの不利益を被ってしまうとの考えが生じるケースです。

しかしこの種の抑止力も、罪悪感が乏しければ羞恥心の項目で述べたような結果となってしまいます。
さらに羞恥心(恥の感覚)すら乏しいような人の場合、例えば捕まっても実刑判決は逃れられるとの判断が働けば、たとえ捕まっても大して実害はないとして容易に犯行に及ぶことが予想されます。

このように罪悪感と羞恥心を共に欠いているような人に対して損得勘定がもたらす犯罪抑止力は、非常に限定的と想定せざるを得ません。

他人への迷惑を考えられる共感能力にも、それなりの犯罪抑止力が期待できる

犯罪の抑止力が期待できる要素の最後は共感能力です。

共感能力とは他人の気持ちを理解したり、相手の立場に立って物事を考えることのできる能力のことで、コミュニケーション・スキルの重要な要素ですが、今回のテーマに関わる部分で言えば他人への迷惑を考えられる能力です。

具体的には自分が犯した犯罪が誰かを苦しめることになってしまうことを想定できる能力で、このスキルがあれば例えば冒頭で紹介したNHKの番組で紹介されていた振り込め詐欺や、あるいは女性を意識がなくなるまで泥酔させた上で法外な飲食代を請求し、払えなければ風俗業者へと売り飛ばすような犯罪行為に対して、ある程度でも歯止めが掛かるはずです。

しかしこの抑止力も、誰かに直接的な被害をもたらすようなものではないと考えられるような犯罪行為の場合には、「別に誰に迷惑をかけるわけでもない」との考えに至ってしまい、抑止力を失ってしまうことになります。

以上の考察から本当に強い犯罪抑止力を有するのは罪悪感と、それに次ぐ羞恥心だけではないかと考えられます。

また今回の記事の内容から、誰でもいつ犯罪を犯してしまうか分からない、つまりその可能性が常にあるように思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、現実には幸いにもそのような状況にはなっていないと言うことは、大多数の人の心の中にある程度でも罪悪感が根づいているか、もしくは罪を犯しても大丈夫と確信できるような状況が実際は滅多に生じないからではないかと考えられます。

次のページでは今回考察した犯罪を抑止できる要素と、反社会性パーソナリティと自己愛性パーソナリティという2つの性格タイプの関係について考察します。

参考文献

ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』、創元社、2005年
マリオ・ヤコービ著『恥と自尊心―その起源から心理療法へ』、新曜社、2003年

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