今回の記事は予定を変更して恐縮ですが「NHK「お母さん、娘をやめていいですか?」~仲良し親子の関係に潜む共生期の恐ろしさをリアルに描いたドラマ」「共生期状態の母親は娘を気持ちの面では赤ちゃんのようにケアが必要な、か弱い存在と錯覚している~NHKドラマ「お母さん、娘をやめていいですか?」より」とも関連したものです。
今回は「ファザコン」「マザコン」という名称、特に後者のマザコンについて考察します。
昔からそのような人はいましたが、徐々に増えて来ているように感じられるとともに、そのような人に対する評価が大きく変化して来ているように思えるためです。
上述の記事で取り上げたNHKのドラマの娘も、そのような典型例です。
昔は「ファザコン」「マザコン」は親離れできない子どもの病理と見なされていた
「ファザコン」「マザコン」とは、ご承知のようにファザー・コンプレックスとマザー・コンプレックスの略称です。
この「ファザコン」「マザコン」は、昔は親離れできない子どもの病理と見なされていました。
その典型例が、若い方はご存じないかもしれませんが、昔一世を風靡したドラマ『ずっとあなたがすきだった』で佐野史郎さんが演じた冬彦という役柄で、冬彦さんブームとまで言われました。
簡単に説明しますと、野際陽子さん演じる母親を理想化するあまり、結婚してからも事あるごとに母親の判断を仰ぎ、また夫婦関係よりも親子関係の方を重視し、さらには妻に母親のような理想的な女性になってくれることを期待するような人物です。
このドラマ『ずっとあなたがすきだった』の親子は、互いに自慢の母親、自慢の子どもと理想化し合い、また二人の関係がこの世の何より大事という点が「NHK「お母さん、娘をやめていいですか?」~仲良し親子の関係に潜む共生期の恐ろしさをリアルに描いたドラマ」に既述したNHKのドラマの親子と共通しています。
ですから同じくもっとも重症域である共生期の自己愛的な親子関係とも言えます。
特にマザコンの評価は散々なものだった
また特にマザコンの方は、冬彦さんとそれを演じた佐野史郎さん自体は、その役柄の強烈なインパクトから大変な人気者となりましたが、実社会における評価はいわゆる気持ち悪い男性の代名詞のような扱いを受けるなど散々な評価をされていたように思えます。
これはそのような男性のことを、大多数の女性が気持ち悪いと感じていたからではないかと考えられます。
「気持ち悪い人」から「優しい人」への大転換
ところがここ数年このマザコンの評価が一変して来たようです。
具体的には、例えばその仲の非常に良い親子の関係を見て「こんなにお母さんのことを大切にしている人なら自分も同じように大切にしてくれるに違いない」と考えたり、あるいはその仲の良さをコミュニケーション能力が高い人の証と考えるなど、その仲の良さの部分のみに注目し積極的に評価する女性が増えて来ているようなのです。
「ファザコン」「マザコン」を自己アピールポイントと考える人が出て来た
そしてこのような世間の評価の変化を受けてのものでしょうか、「ファザコン」「マザコン」を自己アピールポイントと考える人も出て来たようです。
もっとも「ファザコン」に関しては、昔からそのある意味子どもっぽさを女性的な可愛らしさと考える女性は少なからずいました。
しかし「マザコン」については、上述のようにこれまで散々な評価でしたので自ら表明するような男性はほとんどいなかったように思います。
ですからその当時を知る私には、その「マザコン」に対する評価の一変は驚くべきことでした。
「ファザコン」「マザコン」をアピールポイントと考える人の増加は、これまでの発達心理学の常識を覆すもの
またこの「ファザコン」「マザコン」をアピールポイントと考える人の増加は、これまでの発達心理学の常識を覆すものでもあります。
大学などで発達心理学について学んだことがある方でしたら、自我が目覚め特に思春期に差し掛かると、典型的には男子は母親のことを疎ましく女子は父親のことを気持ち悪く感じるなどして、物理的にも心理的に距離を置きがちになり、しかしこれは精神的な自立のための正常な反応と教わったと思いますし、今でもこの重要性は専門家の方から指摘され続けています。
「ファザコン」「マザコン」の高評価は共生期の関係に居心地の良さを感じる人の増加を意味している
このこれまでの発達心理学の常識的な見解からみれば「ファザコン」「マザコン」の人は精神的な自律を達成できていない未だに子どものように未熟な心理状態にあるということになります。
ですからそのような男性に対して嫌悪感を感じるのではなく、むしろ「こんなにお母さんのことを大切にしている人なら自分も同じように大切にしてくれるに違いない」と考える女性は、その男性と同じく精神的な自律を達成できていない可能性が危惧されます。
だからこそ別個の心を持つがゆえに何でも分かり合えることは望めない大人同士の関係よりも、その点のストレスが少ない限りなく仲の良い共生的な関係に惹かれるのではないかと考えられます。
もっとも日本は極力対立を避け円満な人間関係を築くことに価値が置かれるお国柄ですから、仲が良いことに越したことはないと考える方も少なくないと思います。
ですので次回はこのような一見ストレスの少ない楽園のように思える共生期の関係も、実は良いことばかりではないことについて触れる予定です。