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リジリエンス(レジリエンス)の概念の広まりを期待

先週、朝日新聞デジタルのMLのヘッドラインで、次の記事が紹介されていました。
母が自殺、施設で育った女子高校生「自分の過去は強み」

補足)有料記事のため、無料で読める関連ページも紹介しておきます。
「 かわいそう 」と 思いますか 【 私がここに立つ意味 】

母親の自殺、父親からの虐待、児童養護施設で育ったことなどを、今ではむしろ強みと感じている方の記事です。
こうした境遇の方の記事は、その都度それなりに話題にはなりますが、世間一般のみならず心理職の間でさえ、これらの経験は心にトラウマ(心的外傷)レベルの深刻なダメージを与え、それゆえ様々な精神疾患の引き金となるとの考えが未だ支配的です。

つまり記事にあるような方の人生や信念は、あくまで例外に過ぎないものとされ、ごく一部の研究者を除き、その要因が真剣に探求されることもなかったと言えます。
(この点は、心の健康的な側面に焦点を当てるポジティブ心理学についても同様です)

私がこのような現状を好ましくないと考えるのは、次のようなことからです。

健全な養育環境の必要性ばかりが強調されると、個人の改善の意欲を妨げ、社会への敵意を生んでしまう

まず臨床心理に強い影響を与えている理論の典型としては、コフートの「悪い母親理論」に代表される、母親をはじめとした重要な他者による健全な養育態度の必要性を絶対視し、すべての心理的な問題の原因を、幼少期における重要な他者の好ましくない関わり方に求めるような考え方です。

しかしこのような子育ての仕方が子供の人生を決定するかのような考え方ばかりが世の中に浸透すると、個々人に「自分の人生が上手くいかないのは、すべて親のせいだ」との考えを生じさせ、内省や自己研鑽の意欲を損なってしまいかねません。

またこうした他罰思考が習慣化されることで、他の身近な人や社会全体に対して敵意を抱くようになってしまう危険性もあります。

親のメンタルにも悪影響

加えて子育ての影響の過大視は、親の心に不安を生じさせ、完璧な子育てをしなければならないとの強迫観念をも生み出します。

遺伝などの生物学的要因の過大視も子育てと同様の悪影響があり、かつ偏見をも助長する

また子育ての仕方と共に、性格を決める要因として広く信じられている事柄に、遺伝をはじめとした生物学的仮説がありますが、こちらの影響の過大視も子育ての場合と同様に有害です。

なぜなら生物学的仮説に対する人々の受け止め方の典型は「個人の努力では決して変えられないもの」であるため、内省や自己研鑽の意欲を阻害するなど、子育ての影響の過大視と同様の悪影響が生じかねません。
いえ、多くの仮説が客観的事実とみなされるほどの科学に対する信頼度の高さを考えると、影響力の大きさはそれ以上かもしれません。

それに加えて生物学的仮説の過大視は、偏見をも助長します。
例えば「女性は論理的な思考ができない」との仮説が事実とみなされれば、多くの職種で女性が敬遠されるなどの不利益を被ることになるでしょう。
(こうした考え方は生物学的決定論と呼ばれます)

以上のような悪影響を緩和するものとして私が期待している概念の1つがResilience(リジリエンスあるいはレジリエンス)です。
なぜならリジリエンスでは、かなりの個人差はありますが、過酷な状況に直面してもそれに耐え乗り越える力が想定されているためです。
近日、次のページにその概略を掲載する予定です。

参考文献

藤田尚志、宮野真生子著『性 (愛・性・家族の哲学 第2巻)』、ナカニシヤ出版、2016年

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