心理臨床におけるEBP(エビデンス・ベイスト・プラクティス)の概念の特徴

以前に記事にした原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』に、エビデンスに関するとても重要な記述が掲載されていましたので、紹介させていただきます。

心理臨床におけるEBP(エビデンス・ベイスト・プラクティス)の定義

心理学におけるエビデンスに基づく実践とは、患者の特性、文化、好みに照らし合わせて、活用できる最善の研究成果を臨床技能と統合することである。

こちらは同書に掲載されている、アメリカ心理学会による、心理臨床におけるEBP(エビデンス・ベイスト・プラクティス)の定義です。

同書が扱うのは、技法(各種の心理療法)のエビデンスに留まらず、タイトルにもありますようにEBPという、より包括的な概念です。
またそのEBPの定義には、患者の好みという明らかに主観的な要素が含まれています。
加えて上述の定義では直接的には示されていませんが、同書ではアセスメントをはじめとした臨床技能の重要性も指摘されています。

EBPは主観的な要素を徹底的に排除したエビデンス至上主義などではない

このように心理臨床におけるEBPの実践では、技法の選択の部分ではエビデンスという主観性を極力排除する概念を重視しながらも、同時にこれまでの歴史で培われて来た臨床技能をも活用し、さらには相談者の意向も重視するというように、非常に高度なスキルが必要とされることになります。
またこの内容からは、EBPが主観的な要素を徹底的に排除したエビデンス至上主義のようなものでは決してないことも解ります。

これらのことからEBPには、病気を見て人を見ずと揶揄されるような、患者さんの心を無視した冷たい医療とは根本的に異なる、むしろエビデンスという科学的な方法論をいかに相談者という多様な側面を有する一個人に役立てるかという点に力点が置かれているように思えます。

世の中に広まる心理臨床におけるエビデンスの誤った概念

ところが世の中に広まる心理臨床におけるエビデンスの概念は、得てして特定の精神疾患に適用される心理療法をエビデンスの知見(研究成果)に基づき機械的(自動的)に決定し、なおかつその決定を絶対視するようなものであるようです。
このため未だに大多数の心理療法家から有用性を疑問視されてしまっており、この現状がエビデンスの理解や活用の仕方の誤りとして同書でも指摘されている点でもあります。

ですからこうした誤った認識が是正され、1人でも多くの心理療法家に本来目指すべきエビデンスの方向性としてのEBPの概念を知ってもらい臨床の現場で活用して欲しいというのが、著者の原田氏の切なる願いではないかと考えられます。

4月から始まるセミナー「エビデンスに基づくセラピーの効果」では、同書などを参考にしつつ私たち心理療法家が活用できそうなエビデンスの方策を探って行きたいと考えております。
この分野にご関心のある皆様の参加をお待ちしております。

引用文献

原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』、金剛出版、2015年

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