原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』

原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』~エビデンスの調査方法やデータへのアクセス方法を詳述

今回紹介するセラピスト向けの本は、原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』です。
少し前にミック・クーパー著『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』の紹介記事を書きましたが、本書はamazonによれば、そのクーパー氏の著書と同時に購入されている方が多い本のようです。

『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』との比較

いずれもセラピーのエビデンスに関する本ですが『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』と比較した『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』の特徴は、主に次の4点です。

1. 技法(心理療法)のエビデンスに特化
2. エビデンスの調査方法
3. エビデンスのデータへのアクセス方法
4. エビデンスに対する有りがちな誤解

まず1に関しては、セラピスト-クライアント関係など技法以外の重要な要素を排除してしまっている点が問題視されていることを、すでに『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』の記事で紹介しました。
しかし心理職の間で知られるエビデンスとは、専ら技法(心理療法)のエビデンスであることもまた事実です。

次に2以下の内容を網羅していることが『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』の特徴であり強みです。

エビデンスの調査方法やデータへのアクセス方法を詳述した貴重な本

私の知る限り、エビデンスの調査方法やそのデータへのアクセスの仕方を詳しく解説した和書は、これまで存在しなかったように思えます。
その意味で待望の書と言えるかもしれませんし、少なくても私にとっては貴重な情報の数々を提供してくれました。

エビデンスに対する誤った認識が通説の如く流布しているのが現状

また4のエビデンスに対する誤解の章には、私自身も勘違いしていた内容も含まれていました。
恐らくここに書かれているような誤解をしたまま技法(心理療法)のエビデンスを活用する心理職の人々が少なからず存在するため、その人々の活動を通して誤解が広がり、あたかもそれが通説であるかのような印象を形成してしまっているのではないかと考えられます。
その意味でも、2と3の内容を網羅した本書は非常に有益と言えそうです。

加えて単に調査結果のみを評価の対象として、そのデータを鵜呑みにするのも、その逆に否定するのも、どちらも得策ではないと思います。

まとめ

最後に前半の方で、技法以外の重要な要素を排除してしまっている点が問題視されていることを紹介しましたが、ここでの問題点は主に考察範囲の狭さであり、したがって技法のみを対象としたエビデンスの調査がまったく無意味であることを示しているわけではありません。
指摘されているのは、あくまでそれだけでは不十分であるということです。

したがって本書の「まえがき」にも書かれているように、技法(心理療法)のエビデンスをまったく無視するような態度は、心理職に携わる者として倫理的に問題があると言えるでしょう。

以上がセラピストをはじめとした心理職の方々に『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』をお勧めする主な理由ですが、個人的には既述のように技法(心理療法)のエビデンスだけでは不十分と考えておりますので『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究』も併せてご一読をお勧め致します。

紹介文献

原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』、金剛出版、2015年

原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門』
最新情報をチェック!