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共感的理解と情報提供としての直面化-心理カウンセリング

一度も直面化することのなかった心理カウンセリング:

以前に私自身「納得のできるサービスを提供できた」と実感できたある心理カウンセリングについて改めて振り返ってみますと、その心理カウンセリングにおいて私は一度も直面化らしき行為を行わなかったことに気づかされ少々驚きました。
なぜなら(夢分析も含めて)それまでの心理カウンセリングにおいては、1時間の面接時間の中で例外なく直面化の欲求が生じ、そして実際に何度か直面化を行っていたためです。

共感的に理解できたがゆえに直面化の必要性を感じなかった:

ではなぜその心理カウンセリングにおいては直面化の欲求すら生じなかったのでしょう?
それはクライエントの話に素直に共感できたためです。ここであえて「素直に」と断っているのは、心理カウンセラーのあるべき態度として共感的理解に努めようとしたためではなく、本当にクライエントの話に納得できたためです。

心理カウンセラーの心に直面化の欲求が生じる原因:

上述の体験は私に、心理カウンセラーの心に直面化の欲求が生じる原因について新たな洞察をもたらしました。
先の心理カウンセリングで私の心に生じていたことから察するに、直面化とはクライエントの話に共感できない(納得できない)ため、言葉を変えれば見解の相違があるために生じる欲求といえます*。
*日常的に用いられる「(あなたの話に)共感できない」とまさに同じ感覚です。

このことは直面化の定義からも推察できます。直面化とは「幻想的な考えに惑わされて現実が見えなくなっている(現実検討ができなくなっている)クライエントに心理カウンセラーをはじめとした治療者が現実(客観的事実)を伝えることで、クライエントを幻想から目覚めさせ適切な現実検討を可能とさせる技法」と定義されますが、この定義から見る限り直面化を促す心理カウンセラーの心に生じているのは「クライエントの考えは間違っている、あるいは適応的でない」との思いであり、これが共感と呼べないことは明らかです。
また直面化の定義は同時に心理カウンセラーの少なくても共感的とはいえない態度を治療に有効であるとして正当化することに一役買っているともいえます。

では直面化とは非共感的であるがゆえに避けなければならない技法なのでしょうか? これについては次のように考えています。
もしクライエントの話にすべて共感できるのでしたら、それに越したことはないでしょう(もちろん犯罪行為など例外もあります)。
しかし所詮他人である心理カウンセラーにクライエントの話のすべてに共感できるはずがありません。したがって必然的にクライエントの話に違和感を覚え、そしてその違和感が強ければ強いほど直面化の欲求が生じやすくなるはずです。
したがって他人である心理カウンセラーの心に直面化の欲求が生じるのは避けられないものと考えられます。

※直面化以外にも、共感しているつもり(錯覚)から生じる誤った解釈も非共感的な態度として考えられますが、今回の考察では対象外とさせていただきます。
(ちなみにコフートの自己心理学では、故意ではない、つまり直面化によるものではない結果的に非共感的な解釈はクライエントに現実検討の機会を与えるものとして治療に有益であると評価されています)

情報提供としての直面化:

ではこのように不可避的に生じる直面化の欲求に対して、心理カウンセラーはどのように対処したらよいのでしょう? それが治療に役立つと信じて、その都度直面化すべきなのでしょうか? それとも非共感的な態度として厳に慎むべきなのでしょうか?
これについては次のように考えています。

まず直面化が無条件に治療の役に立つのかという点についてですが、他人である心理カウンセラーがクライエントに何が役に立つのかについてクライエント以上に知っていること考えることには無理があるように思えます。
先の直面化の定義は心理カウンセラーの行為を正当化するものであっても、無条件に保証を与えるものではないと考えられます。
ではそのように当てにならない行為は極力慎むべきかといえば…そうはいっても、いったん心に生じたことを簡単に消すことはできず、無理に押さえ込もうと我慢し続けると今度はそのイライラがクライエントに伝わってしまう恐れがあります。

このような心理カウンセラーのイライラした態度は、クライエントに「嫌々話を聞いている」などのメッセージとして伝わり無用な罪悪感を生じさせかねません。
したがってどうしても収まらない直面化の欲求は何らかの形で表現され、かつそれは本来の直面化の定義によるものとは違う意図で表現される必要があると考えられます。

その表現方法とは情報提供です。つまりあくまで「一つの考え方」としてクライエントに提供するということです。
「こういう考え方もあると思いますが、これについてはどう思われますか?」とクライエントに評価していただくわけです。
そしてクライエントの同意が得られなければ、この話はそれでおしまいです。なぜならそれは役に立つ情報提供なのではなく、あくまで「一つの考え方」の提供に過ぎないのですから。

ただしこのような方法での直面化は形だけの情報提供ではなく、本当に情報提供だと思って伝えられなければなりません。
なぜならたとえ情報提供の形で伝えたとしても内心「誤ったクライエントの考えを正したい」との思いがあれば、クライエントの同意が得られなかった場合にその反応を現実を見ようとしない抵抗と解釈してしまい、ますます直面化の欲求に突き動かされてしまいかねないためです。

このように考えますと本当に必要なのは直面化の方法の工夫よりも、むしろ心理カウンセラーの「人間心理の専門家であり日々厳しいトレーニングや研究に努めている自分の考えの方が正しいに違いない」との信念の修正であると考えられます。

直面化の背後に潜む心理カウンセラーの自己愛(自尊心の傷つき)の問題:

もし直面化の欲求があまりに強く、かつ頻繁に生じる場合、そのような強く持続的な直面化の欲求は心理カウンセラーの自己愛の問題から引き起こされているのかもしれません。
つまり自分の考えをクライエントが認めてくれないことで自己愛(自尊心)の傷つきを味わい、度重なる直面化の欲求はその傷つけられた自己愛(自尊心)を回復する試みとして生じている可能性があります。
自己愛(自尊心)はモチベーション、つまり心理カウンセリングに対する心理カウンセラーの意欲に大きな影響を与えることは事実ですが、少なくとも心理カウンセラーの自尊心を高めることが心理カウンセリングの直接の目的ではないはずです。

要約いたしますと、心理カウンセラーの心に生じる直面化の欲求は、少なくともクライエントの話に共感(納得)できないために起こり、しかしこれは他人である心理カウンセラーにとって避けられない事態であると同時に、常に心理カウンセラーの見解の方が正しいとする十分な根拠が認められないため、非共感的(悪くすれば外傷的)な介入を防止するためにも直面化は情報提供の形で示されるべきだと考えられます。

共感的理解の幅を広げる(共感能力を高める)心理カウンセラーの自己受容体験:

最後に心理カウンセラーの共感的理解の幅を広げる(共感能力を高める)ためには、単に心理カウンセリングの場において共感的に理解しようと努力するだけでは不十分であり、むしろ日頃の自己分析や教育分析などを通して自らの様々な心理状態を受容する、つまり共感能力というよりも自己受容能力を高める必要があるように思えます。
なぜなら受容できない事柄について本当の意味で(情緒的に)共感することなど不可能であると考えられるためです。
関連ブログ:情緒的共感と偽りの共感-傾聴の練習と自己受容体験の共感能力を高める効果の違い

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心理カウンセリングにおける情報提供としての直面化 参考文献:

『新しい精神分析理論―米国における最近の動向と「提供モデル」』、岩崎学術出版社、1999年
情報提供としての直面化の考えは、著者の岡野憲一郎さんの提唱する「提供モデル」が下敷きになっています。
伝統的な精神分析理論を批判的に検証する形での記述となっておりますが、その多くが精神分析の技法というよりも心理カウンセリングに携わる人(心理カウンセラー)の治療態度についてのものであるため、心理療法の流派に関わらず役に立つ内容ではないかと思われます。あくまで私見ですが。

共感をテーマとした心理学の本

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P.S. その後、放送大学の講義(人格心理学『自己の変容における語りの役割』)の中で、先の納得と共感との関連性を示唆するような解説を目にしました。
その講義によれば「聞き手が納得しない話は歪んだ解釈や妄想と受け取られ社会的承認が得られず、反対に聞き手の共感を呼ぶような話は妥当なものとして社会的承認を得られる」そうです。
ここでも聞き手である心理カウンセラーがクライエントの話に納得するか否かが共感、ひいてはクライエントに心理カウンセラーからの共感的理解(共感的反応)を通じて得られる社会的承認による自己受容に対して決定的な影響を持つことが見て取れます。
※放送大学の講義はテレビやラジオで無料で視聴することができますし、テキストを買わなくても十分理解できる内容となっています。

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