ダン・ニューハース著『不幸にする親』~親による子どもの有害なコントロールの有様を広範囲にカバーした本

今回は前回の記事「共生期状態の母親は娘を気持ちの面では赤ちゃんのようにケアが必要な、か弱い存在と錯覚している~NHKドラマ「お母さん、娘をやめていいですか?」より」の最後で触れた、機能不全親子の現象理解に役立つ本の紹介です。

ダン・ニューハース著『不幸にする親』~毒親・毒母という言葉を広めた『毒になる親』の続編

今回紹介する本はダン・ニューハース著『不幸にする親』です。
著者名にご記憶がある方もいらっしゃると思います。毒親・毒母という言葉を世に広めるきっかけとなった『毒になる親』の著者です。
『不幸にする親』はその『毒になる親』の続編にあたるものです。

不健康で有害な親による子どものコントロールの有様を広範囲にカバーした本

『不幸にする親』には、不健康で有害な親による子どものコントロールの有様が非常に広範囲に網羅されています。
ですから『不幸にする親』は親子それぞれに次のような利点をもたらすことが期待できると考えられます。

子どもが『不幸にする親』を読むことの利点~自分自身の人生があることを知り、それを歩み始める

まず子どもが『不幸にする親』を読むことの利点は、本書に掲載されている親による様々なコントロールの仕方を知ることで、典型的にはこれまで親の期待の応えられない自分を責め続けていた人が、そのような親子関係はとても不健康なものであり、人には自分自身の人生を生きる権利があると知ることができることです。
それを自覚することで親から精神的に自律し、自分自身の人生を生き始めるきっかけとなるでしょう。

ただしそのためには先ず生き方を模索することから始めなければならず、多くの困難が待ち受けていることを忘れてはなりません。
今の親子関係が有害だと分かったから、もうそれで解決ということでは全然ないのです。

幸い『不幸にする親』には、そのための処方箋も幾つか掲載されていますので、試してみると良いと思います。

親が『不幸にする親』を読むことの利点~親自身も子どもから自律し自分自身の人生を生き始める

対して親が『不幸にする親』を読むことの利点は、これも典型的にはこれまで子どものためを思って行ってきたことの多くが、実は自分の都合に合わせるために子どもを巧妙にコントロールする試みだったと知ることです。

またそれと同時に、子どもには子ども自身の人生があり、それを生きる正当な権利があることを知ることになります。
言葉を変えれば、たとえどんなに心配でも親には子どもが自分自身の人生を生きることを支持するスタンスが必要であり、少なくても自分の心を満たすための道具ではないことを知ることになります。

そしてこれらを知ることによって、親自身も子どもから精神的に自律し自分自身の人生を生き始めるきっかけとなります。
しかしながら親も先ずは生き方を模索することから始めなければならないことは、子どもと変わりありません。

私自身が感じる『不幸にする親』の問題点

最後に『不幸にする親』の内容は全面的に賛同できるものではないことから、私自身が感じる問題点も併記致します。

機能不全親子の原因を親のみに求め、子どもの気質が考慮されていない

『不幸にする親』を読んで感じる最も大きな問題点は、機能不全親子の原因を親のみに求め、子どもの気質(生まれ持った性格傾向)が少しも考慮されていないことです。

『不幸にする親』の序章には「これは親バッシングではない」との項目があります。
しかし不健康な親子関係の原因として親のみについて考察し、子どもの気質を一切取り上げなければ、結果的に不健康な親子関係の原因は親のみにあるとの印象を与えることになってしまいます。
そうして毒親・毒母という言葉と共に、子どもにとって害にしかならない(母)親という極端なイメージが広まってしまったのではないでしょうか。

私には『不幸にする親』のスタンスは、臨床の世界では半ば常識となっていると考えられる「人間の性格=気質と環境の相互作用」との視点が抜け落ちているように思えます。

コントロールという概念が与える親の実像への誤解

『不幸にする親』を読んで感じたもう一つの大きな問題点は、本書が不健康な親子関係の有様を、一貫して親による子どものコントロールという視点で捉えていることです。
これは心理職の側から見れば確かにそのように見えることが多いのですが、当の親自身にはその自覚がないことがほとんどです。

そのため、その無自覚な行為が一貫してコントロールという概念で説明されていることで、あたかも親が子どもを意図的にコントロールしようとしているとの印象を与えかねず、これが毒親・毒母という言葉と相まって、いかにも支配的な(母)親像を生み出してしまっているように思えます。
ですが詳しくは別の機会に述べますが、実際に本書に該当するような親のほとんどは、むしろ非常に強い対人恐怖症的な症状を有しています。

しかし多少バランスを欠いているとはいえ、それまで「親なら当然の行為」として問題視されることさえなかった数々の不健康な行いを専門家の視点から白日の下に晒し、さらには世に広めたニューハース氏の功績は絶大です。
マーティングの世界の格言を援用すれば、どんなに優れたものでも世に知られなければ、それは事実上存在しないに等しいからです。

次回は今回の記事の(子育て)環境の影響のみを重視した考え方について、さらに掘り下げる予定です。
実はこの流れを作った張本人の一人は、私がたびたび記事に理論を援用しているハインツ・コフートだと言われています。

紹介文献

ダン・ニューハース著『不幸にする親 人生を奪われる子供』講談社+α文庫、2012年

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