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自己愛性人格障害・回避性人格障害の原因は自己不信感 目次:

自己愛性人格障害・回避性人格障害の原因は自己不信感
自己感の曖昧さから生じる自己不信感
自己感を曖昧さを補うための試みとしての症状
確かな自己感に対して生じる自己愛性人格障害の誇大性
自己感の曖昧さを自己対象で補う回避性人格障害
自己愛性人格障害・回避性人格障害の治療に効果的な心理療法

自己愛性人格障害・回避性人格障害の原因は自己不信感:

これまでの自己愛性人格障害・回避性人格障害のクライエントさんとの心理カウンセリング夢診断・夢分析、および私自身の抑うつ型自己愛性人格障害傾向の自己分析の経験から、これらの病理の症状形成の本質的な原因は自己不信感であるように思えてきました。
なお、ここでの自己不信感とは具体的には自分の考えや感覚・気持ちなどに対する不信感を指します。
自己愛性人格障害・回避性人格障害の方は私の考察では本質的に自分自身の思考・感情・感覚などが果たして「正しいものなのか」あるいは「本当のものなのか」についての確信が持てない(不信感を抱いている)ために、自分で自分が当てにできない(信用できない)状態にあるではないかと思われます。
そしてこの自己不信感が「虚無感」「空虚感」「無力感」「生きている実感がない」「生きる意味が見出せない」などの自己愛性人格障害・回避性人格障害の方の抱える苦しみを生み出していると考えられます。
自分自身の思考・感情・感覚がまったく信用できないとすれば、何を頼り(指標・基準)に生きていけばよいのか分からなくなってしまいます。

自己感の曖昧さから生じる自己不信感:

このように深刻な悪影響をもたらす自己不信感は、自己感の曖昧さ*から生じると考えられます(ここでの自己感とは「自分らしさ」や「これが自分」という感覚を指します)。
自己感が曖昧で漠然としているために、その曖昧な自分の抱く思考・感情・感覚なども当然信用できなくなるわけです。
*ただ、ここでの自己感の障害が例えばスターンの4つの自己感のうちのどの自己感の発達不全によりもたらされるのかなどについては、不勉強の私には残念ながら判断がつきません。今後の検討課題です。
この自己感の曖昧さは自己心理学の理論を援用すれば、幼少期から現在に至るまでの対人関係(最も重要なのは母子関係をはじめとした養育関係)において自己感を育んでくれる環境に残念ながら恵まれなかった、言葉を変えれば「自分らしく生きることが許されなかった」ことが原因として考えられます**。
そして自己感の曖昧さから生じる自己不信感や虚無感など自己愛性人格障害・回避性人格障害に典型的に見られる症状を解消するために、次に述べるような様々な試みがなされることなり、この試みがそれぞれの病理に特徴的な症状形成につながると考えられます。
**子供に自己感の曖昧さを生じさせる養育環境としては、自己愛的な親による自己愛の延長(物)としての扱い(子供を自らの自尊心の高めるために利用する行為や態度)の他にも、支配的な親への服従、抑うつ的な親に対する罪悪感からの抑圧などと多岐にわたります。
したがいまして『パーソナリティ障害の診断と治療』の「自己愛性パーソナリティの対象関係」の項でも指摘されいますように、子供の自己愛障害の原因として必ずしも親の自己愛障害が存在するわけではありません。

自己感を曖昧さを補うための試みとしての症状:

確かな自己感に対して生じる自己愛性人格障害の誇大性

DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引』の自己愛性パーソナリティ障害に示されているような症状を特徴とする自己愛性人格障害の症状として最もよく知られるものに誇大性があります。具体的には自分の存在や考え方などに過剰に価値を置いている(と他人の目には映る)尊大な態度がこれにあたります。
これまで自己愛性人格障害の方に生じる誇大性は、辛い無力感などを解消するために万能感・理想化・否認などの防衛機制が働く結果生じる症状と考えていましたが、自己感の曖昧さを考慮に入れますと自己愛性人格障害の方に生じる誇大性に対して次のような解釈も可能となります。
もし自己愛性人格障害の方の自己感が曖昧であると仮定いたしますと、時折感じられる「確かな」自己感は砂漠における水のようにかけがえのない価値(希少価値)があるものに思えるはずです。
この自己感に対する価値観が(自己感があることを当然と感じている)他人の目には誇大性・尊大と映るのではないでしょうか。
「自己感の曖昧さ」という観点からは、自己愛性人格障害の方に生じる誇大性は病的な防衛機制というよりも大切な自己感を保持するための試みと解釈されます。

自己感の曖昧さを自己対象で補う回避性人格障害

次に回避性人格障害について考察します。回避性人格障害とは対人恐怖症的な恐怖心があまりに強いために他人との接触(対人関係)を極力回避し、ときには心理的・物理的な引き篭もり状態に陥ってしまうことを特徴とする人格障害です。
しかし精神分析の知見によれば一見自己愛性人格障害とは真逆の性格に思える回避性人格障害も、深層心理では自己愛性人格障害と同様の誇大性を宿しており、いわば自己愛性人格障害と表裏一体の関係にあると考えられています。そのため回避性人格障害はしばしば抑うつ型自己愛性人格障害と呼ばれることがあります。
このことから回避性人格障害の方に対しても自己愛性人格障害の方と同じく自己感の曖昧さを仮定することができ、次のような解釈が可能となります。
回避性人格障害の方に限らず私たちの自己感は誰でも自己対象(自分の一部として感じられるほどに大切な他人)の支えを必要としています。そんため毎日多くの人と接するたびに自己感(たとえば自尊心)が高まったり反対に傷ついたりしています。
このように自己対象は自己感に対して大きな影響力を持つため、自己感の曖昧さを補うために利用されても不思議はありません。
こうして曖昧な自己感を確固としたものにするために他人を自己対象として利用する欲求が生じ、このとき利用される他人は自己愛の延長(物)と呼ばれます。
さらに回避性人格障害(抑うつ型自己愛性人格障害)の方は、幼少期の頃から親から繰り返し自己愛の延長(物)として扱われてきた歴史があると推測されるため、他人を自己愛の延長(物)として見ることに違和感を感じることもないと考えられます。
しかし自己愛の延長(物)として利用する側にどんなに強い欲求があったとしても、利用される側が素直にそれに応じてくれるとは限りません*。
いえむしろ多くの人は自己愛の延長(物)として扱われることに嫌悪感を感じます(ことあるごとに相手に対して、あなたは無条件に常に「正しい」「素晴らしい」というメッセージを送り続けなければならない状況を想像してみてください)。
*子供の場合には、親の世話がなければ生きていけないため親の自己愛的な要求に応じるしかないという特殊な事情があります。
またこのことが子供が(特に自己愛障害の)親により自己愛の延長(物)として利用されやすい原因にもなっています。

こうして回避性人格障害(抑うつ型自己愛性人格障害)の方の曖昧な自己感を他人の肯定的な反応により補う試みは、たとえば他人の役に立つことが生きる糧となっているような人に出会う**などの特別な状況でもないかぎり必ず失敗し、そのたびに深く傷つくことになります。
このような対人関係における傷つきの「繰り返し」が、回避性人格障害(抑うつ型自己愛性人格障害)の方に見られる対人恐怖症的な様々な症状を生み出しているように思えます。
**この場合には一時的にせよ自己愛性人格障害の方に見られるような誇大性の心理が活性化され、その人に対してだけは(安心して)自己愛性人格障害的な態度を示すことが推測されます。
これは私自身、過去に相手の方を自己愛の延長(物)として利用する側として経験したことでもあります。

自己愛性人格障害・回避性人格障害の治療に効果的な心理療法:

自己感の曖昧さから生じる自己不信感を念頭に置きますと、自己愛性人格障害・回避性人格障害の方の治療に効果的な心理療法は、傾聴をはじめとしたクライエントさんの自己感を支える技法であると考えられます。
関連ブログ:傾聴vs直面化・認知行動療法-自己愛性人格障害・回避性人格障害・自己愛障害の治療に効果的な心理療法
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