認知療法の創始者ベックらによる うつ病の認知療法の解説本「うつ病の認知療法」は、うつ病の認知療法のカウンセリングのやり方についての事細かな注意点が詳細に述べられた良書です。
うつ病の認知療法 目次:
認知療法の創始者ベックらによる、うつ病の認知療法の解説本
認知療法とは
行動療法の技法も取り入れたベックの うつ病の認知療法
うつ病の方の思考パターンの理解に最適な「うつ病の認知療法」
新型うつ病・非定型うつ病のカウンセリングにも対応可能な「うつ病の認知療法」
認知療法の簡単さ・効果の高さを強調しがちな最近の認知療法・認知行動療法の本
うつ病のカウンセリングの大変さを実感する日々…
うつ病の認知療法のカウンセリングの解説本としての「うつ病の認知療法」の価値
認知療法の創始者ベックらによる、うつ病の認知療法の解説本:
うつ病の認知療法。最近読んだ認知療法の創始者アーロン・ベックらによる、うつ病の認知療法の解説本で、主に抗うつ薬を服用し休職・休養しても治療効果の出ない*うつ病や抑うつのクライエントさん(患者さん)に対する認知療法のやり方や効果について詳しく書かれています。
(したがって「うつ病の認知療法」は、しばしば心理療法やカウンセリングの本にありがちな、病院での抗うつ薬による うつ病の治療の効果を否定する内容の本ではありません)
*うつ病に対する抗うつ薬の治療効果(うつ病の症状の改善効果)は60~70%と推定されていますが、この抗うつ薬の治療効果の数値についてはあまり認知されておらず、むしろ「うつ病とは心の風邪のようなもので、抗うつ薬を服用して休職し十分に休養さえすれば必ず治る病気」などとテレビで報道されることさえあります。
このことには うつ病の方のネガティブ思考が関係しているように思えます。
うつ病の方は抗うつ薬の治療効果が60~70%と知れば「効果の確実な保証がない*抗うつ薬を服用しても何の意味もない」と考え、抗うつ薬の服用や病院での治療を拒否される恐れがあります。
このような うつ病の方のネガティブ思考による治療の拒否を回避するために抗うつ薬の治療効果の数値があえて伏せられ、ときに うつ病の方の治療意欲を高めるために「うつ病とは心の風邪のようなもので、抗うつ薬を服用して休職し十分に休養さえすれば必ず治る病気」旨のことが言われるのではないかと考えられます。
*ここに うつ病の方の全か無かという完璧主義的な極端な価値判断の傾向が見て取れます。
認知療法とは:
ここで認知療法とは、人間は出来事をどのように認知するか(考えたり意味づけするか)によって身体反応や感情・行動が異なってくると仮定し、その仮定に基づいて認知を変容(修正)することで身体反応や感情・行動を変化させ、クライエントさんを悩ませている症状の改善を図ることを目指す心理療法です。
なお認知療法の定義は必ずしも明確になってはいないようで、狭義には認知療法といえばベックの認知療法のみを指しますが、広義の意味では認知療法はベックの認知療法に加えてアルバート・エリスの論理療法やドナルド・マイケンバウムの自己教示訓練も認知療法と呼ばれるようです。
ちなみにウィキペディアの認知療法のページでは「広義の意味での認知療法」を認知療法と定義し、狭義の意味での認知療法を指す場合には「ベックの認知療法」と呼ぶとされています。
また広義の意味の認知療法に行動療法を加えた心理療法を認知行動療法と呼ぶことも一般化してきているようです。
※なお認知療法は今年から保険診療の対象となったため、病院やクリニックで認知療法による心の病気の治療を受けた際に健康保険が適用されるようになりました。
しかし実情は保険点数が低く採算が取れないという理由から、大多数の病院が認知療法による心の病気の治療を見送っているようです。
行動療法の技法も取り入れたベックの うつ病の認知療法:
このように認知療法とはもっぱら認知に働きかける心理療法だとばかり思っていたのですが「うつ病の認知療法」を読み進めていますと行動療法の話が出てきます。
ベックらによれば、うつ病のカウンセリングの初期や重症の うつ病のカウンセリングでは、まず先に行動療法を用いて うつ病の症状を緩和し、その後に認知療法の技法を用いて認知を修正していくことが推奨されています。
うつ病の方の思考パターンの理解に最適な「うつ病の認知療法」
また「うつ病の認知療法」には うつ病の症例に加えて、うつ病の方に特有の思考パターンが事細かに述べられています。
ここまで詳しく うつ病の方の思考パターンについて解説された本は見たことがありません。
その意味で「うつ病の認知療法」は認知療法のやり方の習得のみならず、うつ病の方の思考パターンの理解にも最適な本の一冊と言えそうです。
新型うつ病・非定型うつ病のカウンセリングにも対応可能な「うつ病の認知療法」
さらに「うつ病の認知療法」には典型的な うつ病(うつ病性障害)の症例の他に、最近 抗うつ薬の効果の出ない うつ病として問題となっている新型うつ病・非定型うつ病と呼ばれる うつ病の症状と思われるような症例も出てきます。
そのため「うつ病の認知療法」で述べられている認知療法は典型的な うつ病のみならず、新型うつ病・非定型うつ病と呼ばれる うつ病へのカウンセリングにも対応可能なように思えます。
認知療法の簡単さ・効果の高さを強調しがちな最近の認知療法・認知行動療法の本:
「うつ病の認知療法」は1979年に出版された本であることを考えますと、その意味でもはや時代遅れの古典的な うつ病の認知療法の解説本と言えるのかもしれません。
事実「うつ病の認知療法」の出版後おびただしい数の うつ病をはじめとした心の病気に対する認知療法(または認知行動療法)のやり方や認知療法を用いたカウンセリングのやり方の解説本が出版されています。
しかし(あくまで私見ですが)その後に出版された認知療法や認知行動療法の解説本の多くは、認知療法のやり方は簡単に習得でき、また認知療法を用いれば うつ病をはじめとした心の病気を抱えるクライエントさんの生活に支障をきたす原因となっている考え方の癖(自動思考*)が簡単に修正され症状も改善されることを強調しすぎているように思えます。
(今思えば「心のつぶやきがあなたを変える-認知療法自習マニュアル**」もそのような本の一冊だったように思えます)
*半ば習慣化されほとんど意識されることなく自動的に働くことから自動思考と呼ばれます。
**関連認知療法ブログ:認知療法自習マニュアル
このことについてベックらの「うつ病の認知療法」では、認知療法の習得には最低でも週一回のトレーニングを半年から二年続ける必要があり、また うつ病のクライエントさんのネガティブな自動思考は認知療法をもってしても修正することは容易ではなく、たとえ一時的に修正できてもすぐにまたネガティブな自動思考が生じてしまうことが多いため、うつ病のクライエントさんへの認知療法によるカウンセリングは相当の忍耐力と時間が必要なことが強調されています。
うつ病のカウンセリングの大変さを実感する日々…
この点に関して私自身も日々の心理カウンセリングや夢診断・夢分析で、うつ病や認知療法へのベックらの指摘の正しさを実感しています。
たとえば病院で うつ病(うつ病性障害)との診断を受けた罪悪感の非常に強いクライエントさんのカウンセリングをしていた際、罪悪感を引き起こしていた自動思考を検討し「実は相手の方の態度にも問題があった」ことが洞察され「これでクライエントさんも罪悪感から解放される」と内心ホッとしたところ、すぐにまたご自身を責め始める、ということを経験しました。
また同じく病院で うつ病(うつ病性障害)との診断を受けた別のクライエントさんは、病院での治療とは別に主にクライエント中心療法による傾聴を用いる心理カウンセラーのカウンセリングを4年以上受けたにもかかわらず、私がお話をうかがった限りでは依然として うつ病に特有の抑うつ・不安・ネガティブ思考・自己卑下などの症状が見受けられました。
うつ病の認知療法のカウンセリングの解説本としての「うつ病の認知療法」の価値:
「うつ病の認知療法」は他の うつ病の認知療法の解説本に比べて分かりやすいとは言えず、またベックらも指摘しているようにこの本を読めば今日からでもすぐに認知療法を自在に使いこなせるようになるというわけでもありません。
しかし「うつ病の認知療法」には他の うつ病の認知療法の解説本では決して触れられてはいない、うつ病の認知療法のカウンセリングのやり方についての事細かな注意点が詳細に述べられています。
そのため出版から30年以上たった今でも「うつ病の認知療法」は、うつ病の認知療法のカウンセリングのやり方についての実践的な解説本としての価値をいまだに失っていないように思えます。
事実、少し前に受講した日本産業カウンセラー協会主催による自己心理学のセミナーの講師の方の話によれば「うつ病の認知療法」はアメリカではいまだに売れ続けており、心理療法の本の売り上げベストテンに名を連ねているそうです。
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