自己愛性人格障害のステータス意識:
「彼ら(自己愛性人格の人々)は自分のアイデンティティや一貫性といった個人的な性質よりもむしろ、美しさや名声や富や政治的に正しいと見えるかどうかといった直接目に見える長所についてあれこれ思いめぐらす傾向にある。」(パーソナリティ障害の診断と治療 P.199)
これは自己愛性人格障害の人々が持つ、あらゆることへのステータス意識についての記述です。
自己愛性人格障害の人々は、基本的に自らの個人的資質(能力)に対して著しい不信感を持っているため、そこから生じる無能力感を補うには社会的資質、すなわち社会的ステータスに頼るしかないと感じています。そのため物事を選択する際に、自分の好みよりも「他人や世間からどう見られるか*」の方が優先されがちになります。
*他者評価や世間体を気にし過ぎるのは、自己愛性人格障害の基本的特徴です。
関連ブログ:対人恐怖症と自己愛性人格障害
職業へのステータス意識:
自己愛性人格障害の人々の社会的ステータスへのこだわりは職業選択において、より顕著になります。
「職業へのステータス意識」は誰しも多かれ少なかれ持っているものですが、自己愛性人格障害の人々ではそれがあまりにも重要視され、自分の興味や関心といったものが意識の外に閉め出されてしまっている点に問題があります。
次に「過度の職業へのステータス意識」がどんなに悲劇的な結果をもたらすかを、私の職業選択の例で示してみたいと思います。
職業へのステータス意識の障害例:
これは私自身の過去のとても苦い経験です…
営業の仕事をしていた頃、(もう思い出せないほど漠然とした理由から)ふと経理の仕事をしてみたくなり、独学で簿記の勉強を始めました。しかし、すぐに簿記1級の試験で壁にぶち当たりました。そこで勉強時間を増やすために内勤職に転属を願い出たのですが、あえなく却下…それではと、再就職の当てもないのにあっさり退職…
(ここでは経理の仕事をするのが唯一の目標で、それ以外のことは「どうでもよく」なってしまっています…)
そして「どうせなら本格的に」と簿記の学校で勉強することにしたのですが、そこで公認会計士なる職業があることを知りました。聞けば税理士よりも社会的ステータスが高い職業とのこと。迷わず公認会計士の受験コースに鞍替えしました。
(万事がこの調子です…)
ステータス意識がもたらした代償…
しかし希望はすぐに絶望へと変わりました…それは私にとって難しすぎる試験*でした。分不相応だったのです…
結局、公認会計士受験が私にもたらしたものは、受験ノイローゼによるパニック障害・うつ病・社会不安障害(失禁恐怖症・嘔吐恐怖症など)、親への経済的負担、そして社会復帰までに要した4年間のブランク…あまりに大きな代償でした…
*公認会計士の試験は合格者の大半を東大卒が占め、またそれぞれの科目には大学院合格レベルの知識が要求されます。
現在も障害となっているステータス意識
「過度の職業へのステータス意識」は今でも私にとって障害となっています。現在私はフリーランスで(主にWeb)デザインおよび心理カウンセリングの仕事をしていますが、それだけでは食べて行けないためチラシ配布のアルバイトもしています。「ステータス意識に捕われている人間が何でチラシ配布?」と疑問に思われるかもしれませんが、ここにも次に述べる自己愛性人格に特徴的な心理が働いています。
自己愛性人格障害の完璧主義:
自己愛性人格障害の人々には「うつ病治療の病院探し@自己愛性人格障害の完璧主義」でも触れましたように、物事を全か無かの両極端で捉える完璧主義の傾向があります。そのため理想が崩れると、今度は正反対の極に気持ちが振れて「何をやってもダメだ」的な発想に捕われてしまいます。中間が存在しないのです。
そのすべてに自信を失った状態から「自分には誰でもできるような仕事しかできない」との考えが生まれ、それがチラシ配布のアルバイトへ繋がっているのだと思います。
「完璧主義」解説本
※「人格障害の定義」「自己愛性人格障害の定義」についてもご一読ください。