複数のパーソナリティ障害の原因となる自己愛障害:
これまで複数のブログで対人恐怖症の症状は自己愛障害と呼ばれる「自分と他人との心理的境界の曖昧さから生じる精神障害」が原因と書きました。
(たとえば 自己愛障害の心理(自意識過剰)を原因とした対人恐怖症の症状・原因・治療)
しかしシゾイド型パーソナリティ障害・対人恐怖症・自己愛障害のすべてが他人に筒抜けになる恐怖-自己分析での洞察から、自己愛障害は対人恐怖症のみならず、自己愛性パーソナリティ障害はもちろんのこと、回避性パーソナリティ障害・シゾイド型パーソナリティ障害など複数のパーソナリティ障害の原因ともなっているように思えてきました。
自己愛障害から生じる回避性パーソナリティ障害:
回避性パーソナリティ障害は精神分析の理論では抑うつ型の自己愛性パーソナリティ障害と呼ばれ、自己愛障害と密接な関連のあるパーソナリティ障害です。その心理状態は対人恐怖症と同様に「他人の態度がすべて自分への反応と感じられてしまう」ため極端な自意識過剰に陥り、その結果「人前で恥をかくことや他者評価への極端なまでの恐怖心」などに支配されると考えられます。
違いは恐怖の度合いが対人恐怖症のような何とか耐え忍ぶことができるレベルを遥かに超えてしまうため、人間関係を絶つことで物理的な引き篭もり状態になってしまいがちなことと、症状が若い頃からすでに生じていることです。
自己愛障害から生じる自己愛性パーソナリティ障害:
自己愛性パーソナリティ障害は「非現実的な理想にとらわれる」「他人に過剰な賞賛を求める」「他人を徹底的に見下す」など、周囲から見て尊大な態度を特徴とするパーソナリティ障害です。その尊大な態度があまりに印象的なためか、境界性パーソナリティ障害とともに最もよく知られたパーソナリティ障害の一つです。
精神分析(特に自己心理学)の理論では、自己愛性パーソナリティ障害の方も回避性パーソナリティ障害の方と同じように極度の自意識過剰から対人恐怖症的な恐怖に晒されていると推測されています。しかしその対人恐怖症的な恐怖が理想化や否認などの防衛機制によって意識からほぼ完全に排除されるのが自己愛性パーソナリティ障害の特徴と考えられます。
同じような対人恐怖症的な恐怖に晒されても、その恐怖を回避性パーソナリティ障害の方が人間関係を絶つことで回避するのに対して、自己愛性パーソナリティ障害の方は理想化や否認などの防衛機制を使い、他人の反応や評価が過剰に意識される状態を「こんなに多くの人間が自分に注目するのは、きっと自分がとてつもなく優れた人間だからに違いない」との幻想(誇大妄想)を作り出すことで恐怖を賞賛という喜びに変えていると思われます。
このような対人恐怖症的な恐怖の回避の仕方の違いが、周囲の方にまるで違う性格のような印象を与えますが、どちらのパーソナリティ障害でも本質的に感じる恐怖は同じと考えられます。
自己愛性パーソナリティ障害も回避性パーソナリティ障害も本質的な恐怖は同じ:
また自己愛性パーソナリティ障害と回避性パーソナリティ障害とは本質的にも似たようなパーソナリティ構造を持っており、二つのパーソナリティ障害はコインの裏表のような関係にあると考えられます。
事実私自身も普段は回避性パーソナリティ障害(抑うつ型の自己愛性パーソナリティ障害)の傾向を自覚していますが、自己分析してみると自己愛性パーソナリティ障害の方に通じる心理が表れてくることが多々あります。
自己愛障害から生じるシゾイド型パーソナリティ障害:
シゾイド型パーソナリティ障害は統合失調症型パーソナリティ障害とも呼ばれ、統合失調症の陰性反応のような完全な心理的引き篭もり状態(心を完全に閉ざした状態)ほどではありませんが、それでも他人から見て感情がほとんど感じられず、また他人にはまったく興味がないような印象を与えることを特徴とするパーソナリティ障害です。
シゾイド型パーソナリティ障害が自己愛障害から生じるプロセスは、他の二つのパーソナリティ障害とは少し異なります。
他のパーソナリティ障害の方が(恐怖の回避の仕方が違うにせよ)他人からの視線や評価などに恐怖を感じるのに対して、シゾイド型パーソナリティ障害の方は自己愛障害がもたらすもう一つの恐怖である、自分の生理的・心理的な状態がすべて他人に筒抜けになってしまう、言葉を変えれば自分の考えていること・感じていること・呼吸音などのすべてが相手に伝わってしまうかのような恐怖に苛まれているものと推測されます。
シゾイド型パーソナリティ障害の冷淡な印象は恐怖の回避の結果:
そのためシゾイド型パーソナリティ障害の方の、感情が麻痺しているかのような冷淡な印象は、感情が周囲に筒抜けになるのを防ぐための努力の結果と考えられ、したがってシゾイド型パーソナリティ障害の方の冷淡な印象は冷たい性格を表すものではなく、それは感情を表現することへの恐怖の表れのように思えます。
要約いたしますと自己愛障害(自他の心理的境界の脆弱性)から生じる対人恐怖症的な恐怖のうち、自己愛性パーソナリティ障害・回避性パーソナリティ障害では「他人→自分」方向の恐怖がより強く感じられ、自己愛性パーソナリティ障害はその恐怖を賞賛という偽りの喜びに変えることで、回避性パーソナリティ障害は他人から距離を置くことで恐怖を回避します。
一方シゾイド型パーソナリティ障害では自己愛障害から生じる対人恐怖症的な恐怖のうち「自分→他人」方向の恐怖がより感じられるため、その恐怖を回避するために極力感情表現を抑制する。
自己愛障害・対人恐怖症とそれぞれのパーソナリティ障害との間には以上のような心理的プロセスが働いているものと考えられます。
回避性パーソナリティ障害 原因・治療・診断ガイド本
自己愛性パーソナリティ障害・自己愛障害の治療・心理学的分析本
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対人恐怖症 治療・克服本リスト