伝統的な精神分析による転移の理解:
以前のブログ(関係性(間主観性)によるパーソナリティ障害・性格態度の相対性と関係性障害)で、父親の自己愛性パーソナリティ障害的な態度の考察から、それぞれのパーソナリティ障害に特徴的に見られる症状(態度)は周囲の人の反応から生じているものであり関係性障害の一面があると述べましたが、この洞察は心理カウンセリングの場で生じる転移についての精神分析理論に改めて疑問を投げかけることとなりました。
自我心理学・クライン派精神分析・対象関係論などフロイトの伝統的な精神分析の流れを汲む精神分析理論において転移とは一般的に「クライエントの心(精神世界)を鏡のように映し出す完全に中立的な立場の心理カウンセラーに対して、クライエントが心理カウンセラーをあたかも過去の重要な他者であるかのように錯覚した状態」と説明されます。
ここで想定されている転移は、クライエントが一方的に現実を歪曲することから生じるものであり、心理カウンセラーの関与は一切認められていません。
※ここでの心理カウンセラーは精神力動的(精神分析的)なアプローチを取っているものと仮定します。
自己心理学・間主観性心理学による転移の理解:
しかし先のブログでの父親のパーソナリティ障害的な態度への関係性の関与を考慮に入れますと、クライエントの転移は心理カウンセラーの反応や態度に触発されたものであり、心理カウンセラーの反応や態度に関係なく一方的に現実を歪めて生じされたものとは考えづらいものがあります。
このように転移への心理カウンセラーの関与を認める考えは、コフートの自己心理学やストロロウの間主観性心理学にも見られますが、父親の自己愛性パーソナリティ障害的な態度への関係性の関与を考慮しますと、自己心理学や間主観性心理学の転移に関する理解の方が的を得ているように思えます。
転移への心理カウンセラーの関与を探索する治療態度:
また転移への理解の仕方は、当然ながら心理カウンセラーの治療態度にも大きく影響します。
もしクライエントの転移に心理カウンセラーが何らかの形で関与しているであれば、転移の解釈に際しても当然ながらクライエントのみならず心理カウンセラーの関与についても探索が行われなければなりません。
そしてもし心理カウンセラーの関与の仕方が非共感的・外傷的なのものであればそのことを認め、場合によっては謝罪してしかるべきだと思われます。
「転移」精神分析的・心理学的考察本