ゲシュタルト療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療 目次:
実際の人間関係ではなく心の中の対象関係に働きかけるゲシュタルト療法
外傷的な出来事の当事者である家族に強い恐怖心を抱くアダルトチルドレンの方々
懲罰的な家族イメージを伴ったアダルトチルドレンの治療に効果的なゲシュタルト療法
ゲシュタルト療法によるアダルトチルドレンの治療方法
・内在化された他の家族のイメージを明確化する
・内在化された他の家族のイメージとの対話
・家族との人間関係についての洞察
アダルトチルドレンの治療にゲシュタルト療法を適用できないケース
実際の人間関係ではなく心の中の対象関係に働きかけるゲシュタルト療法:
家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療、コフートの自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療に続き、今回はゲシュタルト療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療について考察します。
ゲシュタルト療法(ゲシュタルトセラピー)とはフレデリック・パールズという心理療法家が開発したイメージ療法の一種で、精神分析理論では対象関係*と呼ばれる「心の中の他人のイメージ」との対話を通して心の病の治療や自己成長を促す心理療法です。
*精神分析理論によっては実際の対人関係の方を「対象関係」と呼び、心の中のイメージとの関係は「内的な対象関係」と呼ぶ場合もあるようです。
外傷的な出来事の当事者である家族に強い恐怖心を抱くアダルトチルドレンの方々:
アダルトチルドレンとは機能不全家族の中で育つことで特に人間関係に関わる様々な症状を呈する精神疾患と定義されていますので、アダルトチルドレンの方はほぼ例外なく他の家族との間で外傷的な出来事*を体験しているものと推測されます。
*ここでの「外傷的な出来事」にはトラウマ(心的外傷)と呼ばれるような深刻な出来事のみならず、たとえ軽度でもアダルトチルドレンの方にとって苦痛と感じられるような出来事を繰り返し体験することも含まれます。
そのためアダルトチルドレンの方は少なくても一人以上の他の家族に対して非常に強い恐怖心を抱いているケースが多く、中にはその家族の(恐い)イメージが心の中に居座ってしまっている方も少なくありません。
特に後者のようなアダルトチルドレンの方の場合、たとえ家を出て別の場所で暮らし始めたとしても、心の中のその家族のイメージからは逃れることができないため、その家族のイメージからの容赦ない非難や、あるいはその家族の登場する悪夢などで繰り返し苦しめられることになりかねません。
※内在化された他の家族のイメージは明確に意識されているとは限りません。
むしろあまりに恐怖心が強い場合は、漠然とした不安・いわれのない自責感・容赦ない自己非難などの形を取ることが多いようです。
懲罰的な家族イメージを伴ったアダルトチルドレンの治療に効果的なゲシュタルト療法:
このような懲罰的な家族イメージの内在化を伴ったアダルトチルドレンの治療に効果的と考えられる心理療法がゲシュタルト療法です。
後者のような現実の家族のみならず、その家族のイメージもが脅威となってしまっているアダルトチルドレンの方にとって、心の中の恐怖に満ちた家族イメージからの影響が少なくなるだけでも、いえ、どこに逃げても付きまとってくる心の中の恐怖に満ちた家族イメージの変容こそがアダルトチルドレンからの回復に不可欠とさえ言えるのかもしれません。
ゲシュタルト療法はクライエントさんの対象関係(内在化された他者のイメージ)をより役立つものへと変容させることを目的としているため、後者のような心の中の恐怖に満ちた家族イメージに苦しめられるタイプのアダルトチルドレンの治療に対して非常に効果的な心理療法と考えられます。
ゲシュタルト療法によるアダルトチルドレンの治療方法:
ではゲシュタルト療法によるアダルトチルドレン治療の実際の手順に移ります。
1.内在化された他の家族のイメージを明確化する
この手順はゲシュタルト療法ではありませんが、上述のようにアダルトチルドレンの方の内在化された家族イメージは明確に意識されているとは限らないため、まずは内在化された他の家族のイメージを明確化する必要があります。
具体的には例えば自己非難の内容に対して「そんな風なことを○○さんに対してよく言う、あるいはいかにも言いそうな人で、どなたか思い当たる人はいらっしゃいませんか?」とお尋ねすれば、多くの場合人物が特定されます。
2.内在化された他の家族のイメージとの対話
ここからいよいよゲシュタルト療法の手順に入ります。
具体的には内在化された他の家族のイメージとの対話を試みるわけですが、こうしなければならないというルールは特にありません。目を閉じても開けたままでも、椅子を用意してもしなくても、どちらでも構いません。
むしろ対話の仕方や内容はアダルトチルドレンの方に委ねて自由に行っていただいた方が良いように思えます。
もっとも「自由に」と言われてもかえって困惑されるクライエントさんもいらっしゃいますので、そのようなときは心理カウンセラーの方から提案する必要があります。
例えば私の場合は「何かこの機会に伝えたいことはありませんか」あるいは「本人を目の前にしては言えないことでも、イメージの中でなら話せそうなことはありませんか」などとお尋ねすることが多いです。
3.家族との人間関係についての洞察
上手く行けばイメージとの対話から、その家族との人間関係についての洞察が得られます。もっとも洞察内容は同じアダルトチルドレンでも千差万別です。
また仮に有益な洞察が得られない場合でも、その行き詰まりの状態が次なる展開のための介入のヒントにもなり得ますし、そのようなときこそ心理カウンセラーとしての真価が試されるときでもあるはずです。
※余談ですがゲシュタルト療法の中には、声を上げて泣くなどの激しい感情表現がなければ十分な治療効果は得られないとする理論もあるようですが、外傷体験の当事者のイメージと対話することを考えますと、おそらく大多数のアダルトチルドレンの方にとっては(イメージと)話をするのがやっとで、激しい感情を顕わにするなど恐くてできない相談のように思えます。
アダルトチルドレンの治療にゲシュタルト療法を適用できないケース:
どんな心理療法にも限界がありますように、残念ながらアダルトチルドレンの治療にゲシュタルト療法を適用できないケースもあります。
それは内在化された家族のイメージに対する恐怖心が強すぎる場合です。
家族療法や自己心理学によるアダルトチルドレンの治療のように直接家族と対話するのが恐くてできないからこそゲシュタルト療法を用いるのに、その恐怖心が強すぎると治療に使えないとは確かに矛盾しています。
しかし内在化された家族のイメージがあまりに恐ろしい性質の場合、そのイメージを想像するだけでもアダルトチルドレンの方に激しい恐怖心を引き起こしてしまう場合が実際にあり得ます。
このように恐怖心の非常に強いアダルトチルドレンの方の場合、治療に際して家族との直接対話はもちろん、家族のことを話題にすることさえ慎重にならざるを得ません。
したがってこのようなアダルトチルドレンの方のケースでは「急がば回れ」ではないですが、直接家族のことに言及することなく治療を進める必要が出てきます。
次回のブログでは家族療法も自己心理学もゲシュタルト療法も使えない状況でもアダルトチルドレンからの回復に有効な心理療法として、ナラティブセラピー(より正確にはナラティブ・ジャーナリング・セラピー)を取り上げる予定です。
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