自己分析のテーマとなった感情体験:
・相手に怒りを向けることへの恐怖心
・怒りによる残虐な空想
自己分析からの洞察:
・抑うつ性パーソナリティの怒りを表現することへの恐怖心
・抑うつ性パーソナリティの自虐的・自己懲罰的な思考に対する初期治療
1. 自虐的・自己懲罰的な思考に気づき脱同一化する
2. 自虐的・自己懲罰的な思考の正体を突き止める
抑うつ性パーソナリティ・うつ病の治療のタブー
自己分析のテーマとなった感情体験:
相手に怒りを向けることへの恐怖心
依存心の背後の自己対象欲求-ゲシュタルト療法・自由連想法による夢分析・治療249回の最中、いきなり女性客に他のコンセントが開いているのになぜか私の使っているコンセントを抜かれパソコンが強制終了してしまいました*。当然未保存のデータは失われ、夢分析を途中からやり直す羽目に(T_T)
直ぐに文句を言おうとしたのですが、相手が電話を始めてしまいタイミングを逸してしまいました…
*バッテリーを長持ちさせるために、バッテリーを外して使っていたためです。
しかしその女性の何ら罪悪感を感じることなく平気で電話している様子を見ると無性に怒りがこみ上げてきたため、一言文句を言おうと夢分析の洞察をまとめながら相手の電話が終わるのを待っていました。
しかし電話が終わらないうちにその女性が、今度は端の席が空いたのを見てそちらに移る際にまた私のコンセントを抜いていきました。
一度ならず二度までも…私の怒りは頂点に達しました。
ところが不思議なことに、いざ相手に怒りを向けようとすると怖くてできません。さらに動悸がして心拍数まで上がっていきました(@_@;)
体全体で感じるほどの強い恐怖心です。
あまりに相手に怒りを向けることへの恐怖心が強いため、文句を言うことを断念し夢分析の洞察のまとめをまたやり直すことにしたのですが、手が震えてキーボードが上手く打てません。それほど強い恐怖心に支配されていました。
怒りによる残虐な空想
しかししばらくするとまた怒りがこみ上げてきました。私の気持ちも知らずのうのうとしている相手が許せなくなってきたのです。しかし恐怖心が強すぎて文句を言いに行くことができません。
こうして怒りと恐怖心を何度か体験し続けるうちに、今度は怒りに満ちた残虐な空想が次々と生じていきました。
しかし空想の中で何度相手を痛めつけても私の怒りは収まりません。むしろ空想の中でしか怒りを表現することができない自分が惨めに思え、また私の苦痛に気づきさえせずのうのうとしている相手がますます許せなくなりました。
結局帰り際に恐怖心に駆られながらも何とか文句を言えたのですが「あら御免なさい」の一言で済まされ、今までの自分の苦労は何だったのかと、ますます惨めな気分になるだけでした…
自己分析からの洞察:
抑うつ性パーソナリティの怒りを表現することへの恐怖心
私の例のように怒りを表現することのみならず怒りを感じるだけでも極度の恐怖心に駆られる方は抑うつ性パーソナリティと言えます*。
抑うつ性パーソナリティの方は相手に怒りを向けることに対して極度の恐怖心を感じるため、その怒りの矛先をやがて自分に向け換える傾向が強く、したがって自虐的・自己懲罰的な思考(自己非難)や、ときとして自虐行為に駆られやすいと考えられます。
また自虐的・自己懲罰的な思考から、過度の罪悪感にも苛まれやすくなります。
さらに抑うつ性パーソナリティの方の怒りに対する恐怖心は、怒りを表現できないことへの悔しさや惨めさにつながるため、罪悪感に加えて自己卑下により抑うつ状態をますます悪化させてしまいます。
また怒りを発散できないことで、ストレスはたまる一方となりがちです。
*DSM-Ⅳにおいて抑うつ性パーソナリティはパーソナリティの一つとは認められず、抑うつ症状を主訴とする精神障害は気分障害(うつ病も気分障害に分類)に分類されています。しかしどの気分障害にも当てはまらず、なおかつ過度の罪悪感や怒りを抱くことへの恐怖心が不適応の原因となっていると思われる方が確かに存在しています。
したがって個人的には、一つのパーソナリティとして抑うつ性パーソナリティというものがあり、罪悪感や恐怖心による不適応が生活全般にわたっている場合には抑うつ性パーソナリティ障害ないし抑うつ型パーソナリティ障害という診断項目があっても良いと思います。
抑うつ性パーソナリティの自虐的・自己懲罰的な思考に対する初期治療:
1. 自虐的・自己懲罰的な思考に気づき脱同一化する
抑うつ性パーソナリティの方が自虐的・自己懲罰的な思考に駆られるときは、通常その思考に完全に同一化してしまっているため自己非難していることに気づくことは難しく、後から振り返って初めて自己非難に気づき、そのことで自己嫌悪に陥ったりします。
このような抑うつ性パーソナリティの方の、自虐的・自己懲罰的な思考による抑うつ悪化の悪循環の治療には、まずは自分自身の自虐的・自己懲罰的な思考に気づく必要があります。
自虐的・自己懲罰的な思考に気づくためには練習あるのみです。しかし一度コツをつかめば徐々に自虐的・自己懲罰的な思考に途中で気づけるようになっていきます。
また自虐的・自己懲罰的な思考に気づくことができた瞬間、多くの場合その思考から離れる(脱同一化する)ことができるため、自虐的・自己懲罰的な思考を止めることが可能となります。
2. 自虐的・自己懲罰的な思考の正体を突き止める
自虐的・自己懲罰的な思考を意識し、その思考から脱同一化できるようになれば、次はその思考内容の分析を行います。
多くの場合そのような自分を責め立てる自虐的・自己懲罰的な思考は、抑うつ性パーソナリティの方にとって(特に幼少期の)重要な人のイメージが内在化されたものであり、最も典型的なのは両親のイメージです。具体的には次のように行います。
心理カウンセリング
心理カウンセリングの場合はクライエントさんに例えば「そのような言い方で○○さんを責め立てるような人がこれまで周囲にいらっしゃいましたか?」とお尋ねします。
自己分析・自己治療
自己分析ないし自己治療の場合は「こんな風によく私を責め立てるのは誰だろう?」と自問自答します。
抑うつ性パーソナリティ・うつ病の治療のタブー
最後に上述の治療プロセスで自虐的・自己懲罰的な内在化されたイメージが明らかにされますと、治療者としてはついそのイメージとの対話や、イメージの元となっている実在の人物について探索する欲求に駆られがちになります。
しかし抑うつ性パーソナリティの方に対してこのような治療方法は時期尚早です。多くの場合、抑うつ性パーソナリティの方は自虐的・自己懲罰的な思考の元となっている人物に対して、あるいはその人物に対する怒りが自覚されることに対して極度の恐怖心を感じています。
そのため治療者の安易に自虐的・自己懲罰的な内在化されたイメージとの対話を促したり、イメージの元となっている人物のことを詳しく聞く行為は、それ自体が抑うつ性パーソナリティの方にとって「恐怖心を理解してもらえていない」証と映り、非共感的な態度と認識されかねません。
特に抑うつ性パーソナリティの方の抑うつが重症化してうつ病発症にまで至っている場合には、上述の恐怖心に耐えられなくなり意識から完全に締め出しているとも考えられますので、そのような恐怖心を無理に自覚させるような治療方法はタブーです。
抑うつ性パーソナリティやうつ病の方にとって怒りは特別な感情であり、無理に自覚させることは心理的苦痛をもたらし、治療や心理カウンセリングの中断の原因となりかねません。
※自虐的・自己懲罰的な思考は、抑うつ性パーソナリティの方に限ったことではありません。また、どのような性格タイプの方でもショックな出来事に遭遇すれば抑うつ状態に陥る可能性があります。
したがって抑うつ性パーソナリティでない方でも一時的に同様の症状に悩まされている場合には上述の治療方法が役に立つと思われます。
抑うつ 治療ガイド・心理学的分析本