自尊心・自己肯定感の脆さと内的な自己対象の支配力の強さ-回避性パーソナリティ(抑うつ型自己愛性パーソナリティ)の自己分析・治療267回の翌日、次のような夢を見ました。
夢の内容:
心理カウンセリングや夢分析とは別の仕事のクライエントさんと一緒に仕事をしている。
社長のSさんからノートパソコンのネットワークの設定の仕事を任される。それは決められた項目に数字を入力していく仕事でしたが、なぜか別の項目に入力してしまったり、入力済みの項目に上から入力してしまったりして、いつまでたっても上手く入力できません(T_T)
最初のうちは「大丈夫ですよ、気にしないでください」と言ってくれていたS社長も業を煮やしたのか「そんなに難しいことですか?」と呆れた様子。
その社長の態度に「人の気も知らないで」と激しい怒りを感じる。
夢分析からの洞察:
夢分析を行った結果、次のような自己洞察を得ました。
自己愛性パーソナリティ(障害)の理想化の防衛機制による誇大妄想と特別意識
S社長から仕事を任されたとき、夢の中の私は天にも上るような高揚感に包まれていました。なぜなら自分ひとりだけが仕事を任されたことで「自分は他の人よりも能力がある」と認められたと感じていたためです。
しかし実際に任された仕事は入力作業というごく単純な作業であることから察するに、おそらくは「誰にでもできる簡単な仕事だから、たまたま手の空いていた私に任された」のだろうと思われます。
したがって夢の中の私の心には強力な理想化の防衛機制の心理が働いているものと考えられます。
私の性格は回避性パーソナリティ(抑うつ型自己愛性パーソナリティ)*の傾向が強いため、普段はこのような防衛機制の働きは抑圧され目立つことはありませんが、夢には普段は抑圧されている誇大型自己愛性パーソナリティ**傾向が姿を現すことがよくあります。
今回の夢では自分の能力が誇大的といえるまでに理想化されていますが、このような心理状態はDSM-IVの自己愛性パーソナリティ障害の診断項目の中の「自己の重要性に関する誇大な感覚(誇大妄想)」や「特別意識」に近いと考えられます。
*私自身は通常の自己愛性パーソナリティ障害の方のようには躁的な防衛機制が上手く機能せず抑うつ状態に陥ることが多い通称抑うつ型自己愛性パーソナリティ障害と呼ばれる方に生じる対人恐怖的症状は、回避性パーソナリティ障害の診断項目に列挙されている症状と酷似しており、したがって回避性パーソナリティ障害の方は潜在的には自己愛性パーソナリティ障害の方に共通した心理を持っていると考えています。
ただしこのような考えは必ずしも一般的とはいえません。
抑うつ型自己愛性パーソナリティ障害 参考文献:恥と自己愛の精神分析―対人恐怖から差別論まで
**一般的に自己愛性パーソナリティとして知られているパーソナリティタイプで、精神分析理論では(自己中心的で他人に無関心という意味で)無関心型自己愛性パーソナリティと呼ばれることもあります。
自己愛性パーソナリティ障害の理想化自己対象に賞賛される至上の喜び
さらに夢の中の私はS社長に対して全幅の信頼を寄せるだけでなく「自分のことを何でも理解し、いつも味方になってくれる頼れる存在」としてみていましたので、理想化の防衛機制は私の能力のみならずS社長に対しても働いている、つまりS社長は理想化自己対象として機能していると思われます。
したがってS社長から「直々に個別に」仕事を頼まれることで、自分にとって特別な存在である(理想化された)S社長から特別に仕事を頼まれるほど自分は価値のある人間だとの保障を与えられ、またその理想化自己対象に賞賛される至上の喜びを私にもたらしたのだと考えられます。
自己愛性パーソナリティ障害の理想化自己対象への尊大な態度と自己中心的な怒り
ところが至上の喜びを味わったのもつかの間、すぐに自分が本当は大して仕事のできない人間であるという(夢の中の)現実に直面させられたため、心の中の理想的な幻想の世界が脆くも崩れ去ってしまい、激しい抑うつ状態に突き落とされてしまいました…
しかしこんなときにも頼りになるのが理想化自己対象であるS社長です。何しろ「常に自分に理解を示してくれる」理想的な存在なのですから。
最初は哀れみを請うような態度*が功を奏したのかS社長も気を使って「大丈夫ですよ、気にしないでください」と私を支えてくれていたのですが、やがて我慢の限界に達したのか「そんなに難しいことですか?」と呆れてしまいました…
*この態度も同じくDSM-IVの自己愛性パーソナリティ障害の診断項目の「自分の目的を達成するために他人を利用する」態度を連想させます。もっとも理想化自己対象として利用しているのですから、これは当然のことです。
ちなみに私は自身のこの「同情を誘うことで他人の世話を引き出す」態度を悲劇のヒロイン(気取り)と名づけています。
それに対して夢の中の私は「人の気も知らないで」と激しい怒りを感じていますが、「人の気も知らないで」と怒りを覚える気持ちの背後には「自分は配慮されて当然」との尊大な気持ちが存在しており、これはDSM-Ⅳの自己愛性パーソナリティ障害の診断項目の「特権意識」に該当する心理です。
また「人の気も知らないで」と激しい怒りを感じているときの私の心は、もっぱら自分が迫害的な目に遭わされている、つまり被害者意識でいっぱいで、例えばそのような気持ちや態度が他人にどう感じられるのか、などについては一切考慮されていません。
この心理状態が自己愛性パーソナリティ障害をはじめとした自己愛障害の方が自己中心的とされる理由であり、また自己愛性パーソナリティ障害が無関心型自己愛性パーソナリティ障害と呼ばれるゆえんです。
自己愛性パーソナリティ障害の尊大な態度の裏の精神的苦痛の強さ
しかし一見尊大に思えるこのような夢の中の私(そしておそらくは自己愛性パーソナリティ障害の方)の態度も、裏を返せば無条件の配慮を「求めざるを得ない」ほど切迫した精神的苦痛に直面していることの表れのような気がします。
その印象とは裏腹に、それは助けを求める悲痛な叫びのように思えてなりません。
理想化の防衛機制 心理学的解説本
自己愛性パーソナリティ障害・自己愛障害の治療・心理学的分析本
回避性パーソナリティ障害(抑うつ型自己愛性パーソナリティ障害)の症状・治療・原因 心理学的解説本
P.S. この夢を見た数時間後、夢分析で洞察された自己愛性パーソナリティ的な心理と同じような心理状態を現実世界で体験しました。
関連ブログ:自己愛性パーソナリティ障害の特権意識による怒りと被害妄想-自己分析・治療269回