ユング心理学による夢の自己治癒力(自然治癒力)の理論:
フロイトが「夢は無意識への王道」と称したように、心理学の世界で夢は特別の地位を与えられ、特にユング心理学をはじめとしたスピリチュアルな心の領域を扱う心理学では、夢の治癒力ということが盛んに言われています。
ユング心理学では意識(自我)に対して、より上位に位置するセルフ(自己)の存在を仮定しています。そして自我はウィニコットの言う「偽りの自己」のような存在に過ぎず、本当の自己であるセルフに近づくことで自己成長が図られるとし、このプロセスは個性化(自己実現)と呼ばれます。
また本当の自己であるセルフは物事の本質をすべて知り尽くしている一種の神のような存在と仮定されています。
夢はこのセルフの働きにより造られるもので、自我の偏った思考パターンを修正し個性化を促す働きがあるとされます。
このユング心理学の理論によれば夢自体に自我の病的な思考パターンを修正する働きがあると考えられるため、特に夢分析などの作業を行わなくても毎晩夢を見ることで*心理的な自己治癒力(自然治癒力)が働くことになります。
これが夢には治癒力があると言われるゆえんです。
*たとえ覚えていなくても「誰でも」一時間半に一回の頻度で夢を見ていることが実験心理学で明らかにされています。
治癒力は夢分析のプロセスにある:
私自身も夢分析を学び始めた当初はユング心理学の理論を半ば盲目的に信じていました。
しかしその頃から10年以上経った今、改めて当時の夢を振り返ってみますと、当時は自己治癒力によりセルフへと導いてくれると信じて疑わなかった夢の多くが、躁的防衛と呼ばれる理想化された幻想世界への逃避(現実逃避)の表れに過ぎなかったことを知りました。
さらに自由連想法などを用いた自己分析により無意識の心理への親和性が高まるうちに、ユング心理学の理論とは別の夢の意味が明らかとなっていきました。
フロイトは「夢は無意識への王道」と言いましたが、私の印象では夢は夢見手の無意識の心理状態をほぼ正確に表しているように思えます。ただし表現の仕方は日常の空想より遥かにユニークではありますが…
したがって夢は夢見手の無意識の心理の表れであり、夢自体に自己治癒力・自然治癒力が働くことは滅多になく*、治癒力が働くか否かは夢分析のプロセス、したがって夢見手や(間接的に)精神分析家・心理カウンセラーの力次第というのが私の考えです。
*それ自体に治癒力があると思われる夢を何度か見たことがあります。しかしそのような夢は滅多に見られるものではありません。
自己愛の病理を助長しかねない夢の理想化:
夢をいたずらに理想化することは(かつての私がそうであったように)自己愛の病理(重症化すれば自己愛性パーソナリティ障害)を助長・悪化しかねず、また夢分析を本来の目的である心の病の治療や自己成長から元型の知的解釈へと貶めることになりかねません。
しかしたとえ夢に自己治癒力・自然治癒力が期待できないとしても、夢は精神障害をはじめとした心の病の治療に有益であることに変わりはありません。
たとえば夢はパーソナリティタイプの見立てなど、心理アセスメントに大変有益な情報を提供してくれます。
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