被害妄想の治療-非言語メッセージの重要性と直面化の弊害 目次:
被害妄想・加害妄想の心理への非言語メッセージの影響
心理カウンセリングにおける非言語メッセージの重要性
直面化において無視されがちな非言語メッセージの影響
非言語メッセージの影響を無視した加害妄想の直面化の事例
非言語メッセージの影響を活用した心理カウンセリングの事例
職場・学校などでの いじめ・嫌がらせ-非言語メッセージと被害妄想の心理-自由連想法による夢分析・治療での自己洞察から、被害妄想・加害妄想の治療に関して以下のような洞察を得ました。
被害妄想・加害妄想の心理への非言語メッセージの影響:
上述のブログの「被害妄想は妄想ではない」の項目では、被害妄想的な心理は主に相手や周囲の人の表情・態度・仕草・姿勢などを通して発せられる非言語なメッセージに対して生じたものであり、まったく根拠のない妄想ではないことが示されました。
したがって被害妄想とは相手や周囲の人の言語的なメッセージのみを考慮に入れ、その言語メッセージとの整合性から導き出された考えに過ぎないものと思われます。
(加害妄想についてもまったく同様のことが言えます)
心理カウンセリングにおける非言語メッセージの重要性:
心理カウンセリングにおいてはクライエントさんの話の内容(=言語メッセージ)よりも話し方(=非言語メッセージ)、つまり「何を話したのか」ではなく「どのように話したのか」の方が重要とされ、このことはトレーニングの際にも幾度となく聞かされた覚えがあります。
直面化において無視されがちな非言語メッセージの影響:
ところが頭では心理カウンセリングにおける非言語メッセージの重要性を理解しているつもりでも、いざ実践となりますとクライエントさんの話の内容ばかりに気を取られ、肝心の非言語メッセージは蚊帳の外に置かれがちになります。
そしてこのような傾向は直面化の際に顕著になるような気がします。
直面化とはクライエントさんが気づいていないことを伝えることで、幻想から目覚め現実を直視することを促すことを目的とした技法ですが、その際に引き合いに出される現実は多くの場合、言語メッセージのみから判断された現実となりがちです。
たとえば「周囲の人が○○と『言っている』のだから」という調子の直面化の仕方です。ここではもっぱら周囲の人の言語メッセージのみが考察の対象とされ、非言語メッセージの方は半ば無視されています。
※もっとも直面化には、それ以前に逆転移の問題があります。なぜなら「心の専門家である自分は、そうではないクライエントさんよりもクライエントさんの心理状態をよく知っている」と感じることは心理カウンセラーの自尊心を著しく高めるためです。
したがって直面化は心理カウンセラー自身の克服すべき自己愛の問題を孕んでいると考えられます。
非言語メッセージの影響を無視した加害妄想の直面化の事例:
この非言語メッセージの影響を無視した直面化については過去に苦い経験があります。そのときの私の事例を紹介させていただきます。
あるクライエントさんの心理カウンセリングをしていたときのことです。このとき私は心理アセスメントでそのクライエントさんを抑うつ性パーソナリティ(メランコリー親和的性格)と見立てていました。
そのためクライエントさんは必要以上に責任や罪悪感を感じ、また加害妄想を生じやすい性格の方であると考えていました。
そのような見立ての元に心理カウンセリングを続けていますと、あるとき「周囲の人からは悪くないと慰められたが、本当はそうとは思えない」旨の話が出てきましたが、そのときの私の頭には「これは抑うつ性パーソナリティ特有の過剰な罪悪感から生じた加害妄想の証に違いない」との確信が生じ、「今のお話を伺いますと、あなたに非はないように思えます」旨の直面化を行いました。
しかしその瞬間、クライエントさんは「あなたは何も分かっていない」というような表情を浮かべました…
ここでの現実に対する私の判断はもっぱら言語メッセージのみで行われており、そのことがクライエントさんの考えを加害妄想と決め付けることによる直面化を促し、結果非共感的な治療態度を生み出してしまいました。
非言語メッセージの影響を活用した心理カウンセリングの事例:
次に非言語メッセージの影響を十二分に活用した心理カウンセリングの事例を紹介させていただきます。これは私自身が過去にスーパーバイザーから受けた心理カウンセリングの事例です。
すでに内容の方は一部、傾聴vs直面化・認知行動療法-自己愛性パーソナリティ障害・回避性パーソナリティ障害・自己愛障害の治療に効果的な心理療法において直面化を控えた心理カウンセリングの成功例として掲載しておりますので、ここではスーパーバイザーが相手の非言語メッセージに対する洞察をどのように促したのかに絞って考察します。
スーパーバイザー(混乱を避けるため以下では「スーパーバイザーA」とします)との心理カウンセリングでは、ある心理療法のトレーニングの別のスーパーバイザー(以下「スーパーバイザーB」)から自尊心を深く傷つけられるような言葉を投げかけられ、その結果重度の抑うつ状態や絶望感に陥ってしまったことを述べました。
しかしそれはある意味正論でもあったため、そう言われても仕方がないと思うことも付け加えました。
するとスーパーバイザーAは即座にイメージ療法の一つであるゲシュタルト療法の手法を用いて、スーパーバイザーBとのやり取りを再体験することを勧めました。
そしてスーパーバイザーBの立場に立ってみたところ…相手の目つきなどの非言語メッセージから、私を傷つける意図があったことを示唆するような洞察が得られました。
その結果、自分が感じる怒りが逆恨みのような不当なものではなく、意図的に心を傷つけられたことに対する当然の反応であったことが自覚され、抑うつ状態や絶望感は急速に解消しました。
この心理カウンセリングの展開から察するに、私は非言語的に伝えられたメッセージのみを受け取っていれば単に怒りを感じただけで済んだものを、それと矛盾するような(私を気遣うかのような)言語メッセージを同時に受け取ったものと推測されます。
そしてもっぱら私を傷つけるために言われた言葉を、あたかも私についての事実であるかのように受け取り、その結果重度の抑うつ状態や絶望感に陥ってしまったものと考えられます。
おそらくスーパーバイザーAは非言語メッセージの重要性を十分承知していたのでしょう。それゆえ私がスーパーバイザーBから受け取った本当のメッセージへの自覚を促すために、ゲシュタルト療法を提案したものと思われます。
※なおスーパーバイザーBに本当に私を傷つける意図があったのかどうかは分かりません。上述の心理カウンセリングで明らかになったことは、スーパーバイザーBの非言語メッセージから受けた「私の印象」が攻撃的なもので、しかもそれらの作用が無意識的に行われていたということのみです。
また、もしこのことが事実であれば、今日的にはパワーハラスメント(パワハラ)に該当する可能性もあると思われます。
非言語メッセージのコミュニケーション(人間関係)への影響 心理学的分析本
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