モデリング~指図ではなく「自然に影響を与える」という形の子育てや教育の方法

前回「急激な状況変化への対応に役立つ、リフレーミングなど、いくつかの方法」の中で、今回の新型コロナウイルスの蔓延のような危機的状況に対しては、状況の急激な変化に合わせて考え方を柔軟に変化せることのメリットを紹介しました。

今回は同じくウイルスの影響により、自宅で家族と過ごす時間が増えている方も多いことを想定して、子育てや教育に役立つ方法としてモデリングという概念を紹介致します。
なおこの概念はどのような状況の時にでも役立ち、また社員教育などにもある程度応用可能なものですので、気に入っていただけましたら継続的な実践をお勧め致します。

目次:
今回紹介するモデリングとは
「子どもは親の背中を見て育つ」が意味すること
「憧れ」の感情がモデリングの作用を生じさせる
親への絶対的な依存状態が「憧れ」の感情を生じさせる
2つの方策:操作的なモデリングと非操作的(自然な)モデリング
・操作的なモデリング
・非操作的(自然な)モデリングのすすめ
非操作的なモデリングのメリット
親が反面教師になることにもメリットはある

今回紹介するモデリングとは

モデリングという用語は文系・理系含めて様々な分野で使用されていますが、今回紹介するのは心理臨床の分野、特に精神分析の世界で経験則として伝えられてきた仮説です。
したがってビジネスの分野でも活用されているバンデューラの観察学習とは異なる概念です。

「子どもは親の背中を見て育つ」が意味すること

しばしば子どもの成長の仕方を表すものとして「子どもは親の背中を見て育つ」ということが言われます。
ここで重要なのは「背中」の部分で、この例えは自分では見ることができない(=気づかない)部分も子どもはしかっりと見ていて、その部分の影響を少なからず受けることを示しています。

このように親の知らないところで、子どもが自分の影響を受けて育っていくというのが、今回紹介するモデリングの概念です。

「憧れ」の感情がモデリングの作用を生じさせる

ちなみにこのようなモデリングの作用が生じる要因として、精神分析では理想化の心理の存在が想定されています。

理想化とは、人間関係に限れば特定の人のことを自分よりも素晴らしい人と感じる心理ですが、しばしば理想化されたその人に憧れることで「自分もその人のようになりたい」とのモチベーションを生じさせます。

そしてこの理想化および憧れの感情が、親のさまざまな特性を取り入れる動因となるのではないかと考えられます。

親への絶対的な依存状態が「憧れ」の感情を生じさせる

続いて親子の間に憧れの感情が生じる理由について述べます。

よく発達心理の専門家の方から「子どもは(誰でも)親のことが大好き」旨の話が出ますが、これはあながち嘘とは言えません。

子どもは親の援助なしには生きて行くことができません。特に生まれてしばらくは、親を疲弊させてしまうほどのあらゆる世話を必要とします。
このように親子の間には非常に強い依存関係が存在するため、非力な子どもは親を理想視せざるを得ません。
なぜなら、もし自分の世話をしてくれる人間が頼りない存在であったとしたら、それは死の恐怖をもたらすことになるためです。

したがって自分の生存のためにも、親は頼り甲斐のある存在であって欲しいとの願望が生じ、その願望が親に投影されることでその親が理想化され、そうして理想化された親に対してやがて憧れの感情が生まれ様々なことを吸収して行く。

小さな子どもにこのような思考が実際に可能かどうかは定かではありませんが、少なくても精神分析では、無意識レベルの本能的な欲望として、このような心理が想定されています。

2つの方策:操作的なモデリングと非操作的(自然な)モデリング

概念的な説明はここまでとして、いよいよモデリングの実践に話を移します。

これまでの説明のように、モデリングとは親に憧れる子どもが、親の知らない間に様々な事柄を真似るように吸収していく過程を表す概念です。
そこでこの作用を利用した子育てや教育方法が生まれてくるわけですが、これには大きく分けて2つの方法が存在します。

操作的なモデリングとは

モデリングの活用例の1つめは、操作的なモデリングに分類される方法です。

操作的なモデリングとは、望ましい子どもに育てるために、その望ましい状態を親が常日頃から演じ、子どもに影響を与え続けるというものです。
例えば明るい性格の子どもに育って欲しいと思えば、いつも陽気に振る舞い、グローバルな人間になって欲しければ、自分が積極的に外国に興味を示したり外国語を習得するといった具合にです。

ここで重要なのは、操作的なモデリングでは親が子どものために、自分が決して得意ではなかったり、あるいは興味がないことまで無理に実践することがしばしばあることです。

しかしこのような実践はそれ自体少なからずストレスになりかねません。
また「子どもは親の背中を見て育つ」が意味することの節で触れた、自分では気づかないことまでもが子どもに影響を与える可能性があることを見落としています。

このように操作的なモデリングにおけるモデリングの理解は非常に表面的であり、それゆえ親にとってまったく想定外の影響が子どもに及ぶ事態に直面する可能性が高いと言えます。

非操作的な(自然な)モデリングのすすめ

そこでお勧めしたいのが、非操作的な(自然な)モデリングです。

非操作的なモデリングとは、その名のとおり子どもを望ましい状態に変化させることを意図していません。
では何をするのかと言えば、親が自分自身のために変化します。

誰でも理想の人間像や人生に対するイメージを有し、その理想に少しでも近づきたいとの思いから日々さまざまな努力を重ねていることと思います。
その意味で「自分自身のための変化」とは、すでにある程度でも実践されてきたことです。

では非操作的なモデリングがそれと何が違うのかと言えば、その日々の努力が自分でも気づかないうちに子どもに対しても良い影響を与えるかもしれないことを認識している点です。

非操作的なモデリングのメリット

この非操作的なモデリングには、さまざまなメリットがあると考えられます。

自分の向上心が高まる

まず日々の努力が自分だけでなく子どもに対しても良い影響を与えるかもしれないと思えば、向上心がさらに高まることが期待できます。

子どもを操作することから生じるストレスから解放される

また子どもを自分の望みどおりに育てたいと思い操作を試みる態度は、子どもにも(独自の)意思というものが存在する以上100%成功することはあり得ず、その結果少なからずストレスが生じてしまいます。
それに対して非操作的なモデリングの効果を信じることができれば、もっと気楽に子どもと接することができストレスが軽減されます。

子どもの主体性や自立を促せる

さらに非操作的なモデリングでは、操作的なそれで生じるような過干渉を最小限に抑えられるため、物事を自分で判断できる主体性を育み、それは社会生活を営む上で重要なスキルともなるため、結果的に自立を促すことにもつながるでしょう。

親が反面教師になることにもメリットはある

最後にモデリングによって好ましくないことまで伝わってしまうことを危惧される方もいらっしゃるかと思いますので、その点について補足しておきます。

おそらく残念ながらその可能性はゼロではないと思います。
しかし世の中には「このような人間にだけはなりたくない」と、親を反面教師のように扱い、まるで真逆の性格の人間に育つ子どももいます。

子どもからこのように思われるのは、親としてとても悲しいことでしょうが、見方を変えればこれはその子を何でも鵜呑みにするのではなく、適切な判断力を有した人間に育てることができた証と考えることもできます。
また、むしろ親が完璧な人間になることを目指すことの方が、子どもの許容性を奪ってしまう可能性だって考えられます。

ですからこの非操作的なモデリングの効果を高めるコツは、どのような事態になってもそれぞれにメリットがある、というくらいの気持ちの余裕を持つことではないかと考えられます。

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