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家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療 目次:

多様なアダルトチルドレンからの回復・治療方法
家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療
アダルトチルドレンの定義と家族療法の仮説との整合性
家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療の難しさ-親への恐怖心の存在
親への恐怖心から生じるアダルトチルドレンの症状
親への恐怖心がもたらす家族療法(家族カウンセリング)への苦痛
アダルトチルドレンの治療初期に家族療法を適用することの危険性
「話し合えばいつかきっと分かり合えるはず」との家族神話の幻想?

多様なアダルトチルドレンからの回復・治療方法:

怒りの自覚・表現vs母親への共感的理解-アダルトチルドレンの自己分析・回復・治療からのアダルトチルドレンの回復・治療への自己洞察の続きです。
先の自己分析では東ちづるさんと私のケースそれぞれの、アダルトチルドレン(AC)からの回復・治療過程について比較検討しました。
今回のブログでは以上の他に、過去にカウンセリングさせていただいたクライエントさんの中でアダルトチルドレンと思われる症状をお持ちの方のアダルトチルドレンからの回復・治療過程も加えてさらに詳しく比較検討します。
なぜならアダルトチルドレンから回復されたと思われるクライエントさんの多くが、東ちづるさんが回復された治療方法(母親同席の家族療法)とも、私の選択した治療方法(自己心理学的な母親の人生への共感的理解*)とも異なる治療方法、具体的にはゲシュタルト療法(ゲシュタルトセラピー)によりアダルトチルドレンから回復されたと考えられるためです。
*関連ブログ:コフートの自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療
ところが…いざそれぞれの心理療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療について書き始めますと非常に長文となってしまったため、予定を変更して今回のブログでは東ちづるさんの回復のケース、つまり家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療に絞って掲載させていただきます^^;

家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療:

NHK教育『子どもサポートネット』のアダルトチルドレンの特集番組に出演されていた東ちづるさんのお話によれば、個人カウンセリングと並行して母親同伴による家族カウンセリング(家族療法)*を行い、最終的に家族療法により「母と娘いうものは何でも分かり合えるとは限らない」ことに気づかれたことが、アダルトチルドレンからの回復に大きく寄与したようです。
これは母親の限界、見方を変えればご自身の幻想的な母親への期待に気づかれたことが、アダルトチルドレンからの回復につながったものと考えられます。
*東ちづるさんの場合、アダルトチルドレンに関するお悩みは主に母親との人間関係から生じていたそうです。

アダルトチルドレンの定義と家族療法の仮説との親和性:

このような家族療法の治療効果はアダルトチルドレンの定義からすれば、むしろ当然予想できることなのかもしれません。
なぜならアダルトチルドレンの病理とは一般的に次のように定義されていると考えられるためです。
「アダルトチルドレンとは(親や他の家族が親・家族としての機能を正常に発揮できないという意味での)機能不全家族の元で育ったために多くのトラウマ(心的外傷)体験に晒され、その結果さまざまな心の病を抱えるに到った子供、およびその子供の頃のトラウマ(心的外傷)体験の悪影響に今も晒され続ける大人の総称」
上述のアダルトチルドレンの定義から想定されますように、アダルトチルドレンの病理とは機能不全家族、言葉を変えれば病理的な家族間の人間関係の存在をその前提としています。
一方、家族療法が想定する個人および家族の病理の性質とは次のようなものです。
「ある家族のメンバーの個人的な病理(のように見える)現象は、実は家族全体の病理の一つの現れに過ぎない」
このようにアダルトチルドレン・家族療法のいずれもが、個人を超えた家族という集団全体としての病理を想定しているため元々親和性があり、したがってアダルトチルドレンの治療に家族療法が用いられ、それが治療的に作用するのはむしろ当然と言えるのかもしれません。

家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療の難しさ-親への恐怖心の存在:

もっとも理論上はアダルトチルドレンに対して家族療法が高い治療効果が期待できるとしても、現実にはそう上手くことが運ぶとは限りません。
アダルトチルドレンの治療に際して家族療法が上手く機能しない原因の一つとして、次のような要因を挙げれることができます。
アダルトチルドレンの病理に苦しまれる方の多くは親(片親あるいは両親)に対して非常に強い恐怖心を抱いておられるようです。
なかには(私もその一人ですが)現実の親に対する恐怖心だけでなく、恐怖に満ちた親のイメージが心の中に居座り(取り入れ・内在化)いわば過酷な超自我として機能し続けているような方もいらっしゃいます。

親への恐怖心から生じるアダルトチルドレンの症状:

このような方の場合、たとえ親から離れて独りでいたとしても意識的・無意識的に内在化された親から罰せられる恐怖に晒されることが頻繁に生じるため、次のような症状に苦しめられることがあります。
・反復的に生じる、親から虐待されるなどの迫害的な空想
(一種のPTSD(心的外傷後ストレス障害)様のフラッシュバックといえます)
・あるいは得体の知れない漠然とした不安
・(親から罰せられる空想の作用と思われる)いわれのない罪悪感
・(そのいわれのない罪悪感から生じると考えられる)自己非難や自虐的・自己懲罰的思考・行為、および自傷行為自殺願望など
・(親密な人間関係がかつての虐待的あるいは非共感的な親子関係を想起させ、その恐怖を払拭するための防衛手段と考えられる)攻撃的な言動や行為
・以上のような恐怖体験を未然に防ぐための、ときに不適応的な回避行動や生活全般の大幅な制限
※これらの症状はときとして境界性パーソナリティ障害(ボーダーライン・BPD)などのパーソナリティ障害と診断される可能性を孕んでいます。

親への恐怖心がもたらす家族療法(家族カウンセリング)への苦痛:

家族療法では病理の原因を個人の心理ではなく家族全体へと求めるシステム論的なアプローチを取るため、治療に際しても(個人の心理的な変化を促す)個人カウンセリングよりも、家族という集団全体の人間関係の改善を目的として、可能な限り多くの家族のメンバーが参加して行われるカウンセリング、いわゆる家族カウンセリングを重視する傾向があります。
しかしアダルトチルドレンで苦しまれるクライエントさんに上述のような(内在化されたものも含めて)親への非常に強い恐怖心が生じている場合、当事者同士が顔を合わせて行われる家族カウンセリングは非常に大きな苦痛を強いられ、悪くすればそのこと自体がトラウマ(心的外傷)的な体験となりかねない可能性があるように思えます。
東ちづるさんがNHKの番組で「最初のうちは母親に話をしても親子喧嘩になるばかりで収拾がつかず、最終的にアダルトチルドレンから回復できたと言えるまでに4年以上の歳月を要した」旨とおっしゃられていたことからも、家族療法的なアプローチによるアダルトチルドレンの治療が簡単なものではないことが窺えます。
東ちづるさんの努力と忍耐にはただただ敬服するばかりですが、上述のアダルトチルドレンの方の親への恐怖心の強さを考えますと、このようなアプローチに耐えられるクライエントさんはそう多くはないように思えます*。
したがって(もし可能であれば)次回以降に掲載予定の、家族療法以外の心理療法(特にゲシュタルト療法)によるアダルトチルドレンの治療の方がクライエントさんへの負担が遥かに少ないのではないかと考えられます。
*私も家族療法的なアプローチにあえなく挫折した一人です(T_T)
関連自己分析:怒りの自覚・表現vs母親への共感的理解-アダルトチルドレンの自己分析・回復・治療の「母親に辛い気持ちを伝えて余計に惨めになった体験」
家族療法の技法・特徴・留意点ガイド本
お勧めは「家族療法の基礎理論―創始者と主要なアプローチ」です。数多くある家族療法の技法を第一人者のリン・ホフマンが解説した本です。
アダルトチルドレン(AC)からの回復・克服・症状・原因・治療・診断ガイド本
最後に東ちづるさん、詳しい事情を知らない部外者が好き勝手なことを書いて御免なさい^^;


アダルトチルドレンの治療初期に家族療法を適用することの危険性:

P.S.その後トラウマ問題のバイブルと称されるハーマンの『心的外傷と回復』に次のような記述を見つけました。
「治療の初期段階で家族カウンセリングの依頼があったとしても、それはクライエントさんに確実な自己防衛(面と向かって言いたいことがある程度言えて、なおかつ相手の態度にも外傷的な反応が引き起こされず、ある程度耐えられる精神状態)が出来上がってからにすべき…原家族(虐待をはじめとした心的外傷をクライエントさんに負わせた人物がいる家族)に真実を告げることは、後の段階で行う方が成功の確率が遥かに大きい」(増補版 P.265-266)
この「心的外傷と回復」の記述からも、やはり治療初期から家族カウンセリングを行うことはクライエントさんにとってはトラウマ(心的外傷)の再体験にしかなりえず、仮に*もし家族カウンセリングを行うとしても、いずれ別のブログに掲載する予定の他の心理療法を用いた個人カウンセリングでクライエントさんの自尊心や自己肯定感が十分に回復してから行うべきであることが伺えます。
*ここで「仮に」と断っているのには訳があります。これはあくまで私自身の過去の心理カウンセリングから得られた知見ですが、家族間の人間関係の悩みを抱えるクライエントさんにゲシュタルト療法を用いてイメージの中で対話していただきますと(私の予想に反して)十中八九クライエントさんの心の中に、和解ではなく例えば「この人には何を言っても無駄」なことを悟るような諦めの気持ちが生じ、それがかえってクライエントさんを苦しみから解き放つ効果をもたらしました。
これらのケースの場合、当然ながらその後家族療法的なアプローチが取られることはまずありません。

「話し合えばいつかきっと分かり合えるはず」との家族神話の幻想?

あくまで私見ですが、おそらくこのようなプロセスを踏むクライエントさんは「血のつながった家族なのだから話し合えばいつかきっと分かり合える日が訪れるに違いない」との家族神話といえるような信念をお持ちで、その信念にこれまでずっと苦しめられてきたのではないかと考えられます。
※なお、東ちづるさんが家族療法で母親に対して同じような「諦め」の気持ちを感じたことは、私にとって興味深いことでした。
私にはまったく予想外の展開でしたが、アダルトチルドレンにまつわる家族間の人間関係に苦しむクライエントさんにとって「家族との良好な人間関係や和解」は必ずしも唯一の解決策とはいえず、もしろそうしなくても良いことに気づくことが救い(アダルトチルドレンからの回復)につながることが多いようです。
※なお、ここでの諦めとは「家族の縁を切る」ことを意味するものではなく、おそらく幻想的な期待からの解放を意味しているものと思われます。
コフートの自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療に続く。

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