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コフートの自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療 目次:

精神疾患の家族内連鎖を強調したコフートの自己心理学
コフートの自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療-私のケース
ウィニコットの精神分析理論による母子関係の自己分析
母子関係の真実を確かめるために母親と対話
母親の人生への共感的理解による恨みの消失
コフートの自己心理学の「親の人生への共感的理解」によるアダルトチルドレンからの回復・治療
親への怒りの増幅もアダルトチルドレンからの回復・治療に役立つ可能性
自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療の制約

精神疾患の家族内連鎖を強調したコフートの自己心理学:

以前に家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療で、あくまで部外者の立場からではありますが家族療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療について考察しました。
今回はその家族療法とは別の心理療法、具体的には精神分析理論の一つである自己心理学の理論に基づいたアダルトチルドレンからの回復・治療について考察してみたいと思います。
自己心理学とはハインツ・コフートが打ち立てた精神分析理論で、読んで字のごとく自己(「これが私」という感覚)を中心に据えた概念です。
コフートは精神疾患、中でも自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性パーソナリティ障害)の治療に際しての共感的理解傾聴の重要性を指摘しましたが、それに加えて精神疾患の家族内連鎖についても重要視していました。
つまり非共感的な親に対するクライエントさんの怒りも理解できるが、その親の態度もまた自分の親との間で同じように傷つきを味わった結果生じたのであり、それゆえこれは誰が悪いという問題なのではないという考えです。
※コフートと同様にアリス・ミラーも「才能ある子のドラマ」の中で自己愛は連鎖するとして、精神疾患の家族内連鎖の可能性を指摘しています。
また『パーソナリティ障害の診断と治療』によれば、このように精神疾患の家族内連鎖を強調するコフートの自己心理学は、精神分析家のみならず家族間の人間関係のトラブルに関わることの多いケースワーカーの人々からも高く評価されているそうです。

コフートの自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療-私のケース:

次に肝心のコフートの自己心理学の、アダルトチルドレンからの回復・治療への効果についてですが、今回は私自身がアダルトチルドレンと思われる症状から回復していったケースについてお話させていただきます。

ウィニコットの精神分析理論による母子関係の自己分析

当時の私はこのブログに掲載しているような自由連想法による自己分析はまだ行っておらず、もっぱら心理学や心理療法の本を読みながら、その文章に触発される形で自己分析を行っていました*。
特に精神分析家のウィニコットの本が自己分析に大きな影響を及ぼしました。
*余談ですがこのような形での自己分析は現在でも続いており、私見では自分自身や症例のことを頭の片隅に置きながら本を読む方が、ただ理論を覚えるために読むよりも遥かに身になると考えています。
ウィニコットは精神分析家である前に小児科医でしたので、母親と子供との人間関係(母子関係)を軸にその理論が構成されていました。したがって自己分析のテーマも必然的に母子関係が中心となっていきました。

母子関係の真実を確かめるために母親と対話

ウィニコットの精神分析理論に触発される形で幼少期の母親との人間関係についての無意識的な記憶*が次々と浮上する中、私は生まれたばかりの頃や幼少期の自分がどんな子供だったのかを確かめたい欲求に駆られ、そのことを確かめるべく田舎の母親に定期的に電話するようになりました。
こうして絶縁とは言わないまでも疎遠だった母親との対話が偶然にも再開されることとなったのです。
*社会構成主義の理論に出会った今は、すべてが抑圧されていた記憶とは思えず、中にはそのときの自分に役立つような考えや気持ちが形成されたものもあったのではと考えています。
以前に怒りの自覚・表現vs母親への共感的理解-アダルトチルドレンの自己分析・回復・治療の「母親に辛い気持ちを伝えて余計に惨めになった体験」で、母親に対して辛かった気持ちを伝えようとしても体が震えて上手く伝えられなく、それゆえアダルトチルドレンの方に母親ないしは父親を交えた家族カウンセリングを行うことは、それ自体が精神的な苦痛をもたらすと述べました。
しかしこのときの私にはそのような母親に対する恐怖心はほとんど感じられませんでした。
母親を非難したりするようなことは怖くてとてもできなくても、幼い頃の自分のことを聞くことは何とかできたのです。
※ただし後に母親が上京した際、対面して話をするだけで恐怖心のあまり眩暈が生じたことを考慮しますと、電話だからこそ心理的に適切な距離を保つことができた結果あのような話ができたのではないかと考えられます。

母親の人生への共感的理解による恨みの消失

このような世間話とは程遠いような話題に対して(驚いたことに)母親は喜んで話をしてくれました。
しかも幼少期の私の様子だけでなくその頃の自分のことや、結婚前や自分が子供の頃の話までしてくれました。
詳細は既に怒りの自覚・表現vs母親への共感的理解-アダルトチルドレンの自己分析・回復・治療の「母親の人生の共感的理解によるアダルトチルドレンからの回復・治療-私の場合」に掲載してますので今回は割愛させていただきますが、その母親の信じられないような壮絶な話を聞かされたことで、なぜ母親が私にとっては非常に辛い態度を取った、いえ「取らざるを得なかった」のかが理解できたように思えました。
また母親の人生に共感的理解が生まれたことと並行して、いつしか母親への長年の恨みも不思議なことに消えていきました。
これは軽減ではなく文字通り「消失」したのです。

コフートの自己心理学の「親の人生への共感的理解」によるアダルトチルドレンからの回復・治療:

その後『パーソナリティ障害の診断と治療』で既述の「親もまた自分の親との間で同じように傷つきを味わったのであり、それゆえこれは誰が悪いという問題なのではない」旨の文章を目にしたとき、上述の「母親の人生への共感的理解を通して母親への恨みが消失」した体験がまさにコフートの自己心理学の治療効果と重なるように思えました。
アダルトチルドレンの方は親(多くの場合、母親)に対する恐怖心があまりに強いため、ネガティブな感情をほとんど表現することができず、その従順さ(あまりに聞き分けの良い子*)ゆえに親の言いなりのような人生を送ってしまいがちになります。
*母親は子供の頃の私のことを「聞き分けが良く、ほとんど手のかからない子」と評していました。
しかしもしアダルトチルドレンの方が親から、あるいは直接本人に聞けないようでしたら他の家族や親戚その他の親しい知人から自分の知られざる生い立ちや(おそらくは同じように辛い)親の生い立ちを聞く機会に恵まれれば、私のケースと同様にその親に共感的な気持ちが生じたり、恨みが消失ないし軽減することで許しの気持ちが生じたりすることをきっかけとしてアダルトチルドレンから回復する可能性があるように思えます。

親への怒りの増幅もアダルトチルドレンからの回復・治療に役立つ可能性:

ここで仮に親ないしその他の家族・知人から話を聞けたとしても、その内容が共感どころかますます許せないような内容だったとしたら…との懸念が生じます。
しかしたとえこのようなケースになったとしても、それはそれでアダルトチルドレンの方にとって治療的な効果をもたらす可能性があると私は考えています。
なぜならアダルトチルドレンの方の多くは、怒りを表現できないばかりでなく怒りを感じるだけでも「親を悲しませる・傷つける」酷いことだとして罪悪感に苛まれたり、あるいは内在化された親のイメージから報復的に罰せられる恐怖に圧倒されてしまうことから怒りを抑圧する傾向があると考えられるためです。
このアダルトチルドレンの方の怒りを罪悪感や懲罰不安から抑圧する傾向を考慮しますと、親に対する怒りの増幅は罪悪感や懲罰不安を打ち負かし怒りの受容を促すエネルギーになり得るのではないかと私は考えています。
実際過去に(自己心理学的アプローチばかりではありませんが)心理療法を通して怒りが増幅された結果、それまではとても怖くてできなかった怒りを自覚できるようになることで気持ちが楽になったクライエントさんが何人もいらっしゃいます。
また上述の治療効果はハーマンが『心的外傷と回復』で述べた、自らをトラウマ(心的外傷)の被害者*と認められることで得られる、不必要な罪悪感からの解放効果と重なる部分もあるように思えます。
*欧米では『心的外傷と回復』で提唱されたアプローチの結果、子供が親を法的に訴えるケースが急増したとして著者のハーマンが批判の矢面に立たされているようです。
しかし私が『心的外傷と回復』を読んだ限り、心理カウンセラーその他の治療者が訴訟を勧めているような記述は一切見当たりませんでしたので、おそらくこれは心的事実を歴史的事実と誤認した結果生じた悲劇なのではないかと推測されます。

自己心理学によるアダルトチルドレンからの回復・治療の制約:

ただコフートの自己心理学的アプローチによるアダルトチルドレンからの回復・治療には大きな制約があります。
それはこの技法がどのような方法を取るにせよ親子の対話が可能ないしは、その他の対話可能な家族や知人が親のことを熟知していることを前提としていることです。
したがってこの条件が満たされない状況では、コフートの自己心理学的アプローチによるアダルトチルドレンからの回復・治療は残念ながら適用できません。
しかしそれでもまだ希望はあります。親子を交えた家族カウンセリングも無理、親の生い立ちを聞くことも無理…それでもアダルトチルドレンからの回復に有効な治療方法が他にもあります。
次回のブログでは家族療法も自己心理学も使えない状況でもアダルトチルドレンからの回復に有効な心理療法として、イメージ療法の一つであるゲシュタルト療法(ゲシュタルトセラピー)を用いたアダルトチルドレンからの回復・治療について取り上げる予定です。
コフートの自己心理学ガイド本
入門書としては和田秀樹さんや丸田俊彦さんの本がお勧めです。
アダルトチルドレン(AC)からの回復・克服・症状・原因・治療・診断ガイド本


ゲシュタルト療法によるアダルトチルドレンからの回復・治療に続く。

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