要約:工藤晋平著『支援のための臨床的アタッチメント論:「安心感のケア」に向けて』は、アタッチメント論の理解のみならず、流派に関わらず自身の臨床実践により深みをもたらす実用書に思えました。
今回ご紹介する書籍は工藤晋平著『支援のための臨床的アタッチメント論:「安心感のケア」に向けて』です。
20世紀の中頃に発達心理学者のボウルビーとエインズワースにより生み出され、当初は愛着と訳されたアタッチメント理論について、支援者や心理臨床家の実践に役立つように構成された解説本です。
『支援のための臨床的アタッチメント論』の概要
『支援のための臨床的アタッチメント論:「安心感のケア」に向けて』は次のような内容で構成されています。
・アタッチメント論の歴史
・アタッチメントの性質(生物学的な性質の強調)
・アタッチメントの視点が必要な理由
・(安全ではなく)安心感のケアの必要性
・アタッチメントのパターンとアセスメント
・逸脱行動や非行・犯罪との関連
・支援や心理臨床への適用
・土居健郎の「甘え理論」との関連
・精神分析との関連
類書よりも臨床実践に役立った『支援のための臨床的アタッチメント論』
アタッチメント論については以前から興味があったため、すでに何冊かその分野の書籍には目を通していました。
しかし新たに『支援のための臨床的アタッチメント論』を購入したのは、類書以上に私のカウンセリングの実務に役立ったためです。
精神分析理論のより深い理解にも役立ったアタッチメント論
そのもっとも大きな要因は、同書ではアタッチメント論がおりに触れて精神分析と対比する形で書かれていたためです。
カウチを用いた自由連想法を行なっているわけではありませんが、フロイトの欲動論に始まり、その後の対象関係論や自己心理学、間主観的アプローチなど、現代に続くさまざまな精神分析理論を援用しながらカウンセリングを行う私にとって、同書のアプローチの仕方はそれまで曖昧だった領域の整理に役立ちました。
特に転移と呼ばれる現象が、アタッチメント論を用いれば、神秘的な雰囲気を帯びることなく、より常識的な感覚で理解できるようになりました。
共感の具体的な処方箋を提供するアタッチメント論
またカウンセリングにおいて必須と言える共感についても、アタッチメント論を援用すれば、そのコツをより具体的に理解できるように思えました。
以上のように『支援のための臨床的アタッチメント論:「安心感のケアに向けて」』は、アタッチメント論の理解に留まらず、(私自身もそうであったように)セラピスト-クライエント関係を重視する方であればどなたでも、自身の臨床実践により深みをもたらす一冊としてお勧めいたします。
次のページでは、同書の内容が学童保育の仕事にも役立ったことについて触れます。
紹介文献
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