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私説:ユングのタイプ論の解説1~思考優位の現代人に欠けている感情の機能の大切さ

今回はユングのタイプ論を取り上げてみたいと思います。
ユング心理学は若い頃はかなり傾倒しましたがカウンセリングの仕事をするようになってからは、むしろ距離を置くようになりました。
その理由はしばしば指摘されますように心理臨床への活用が難しいためです。

ですが改めて振り返ってみますとタイプ論に関してはシンプルでありながらけっこう的を得ているように思え、それで一度取り上げることにしました。
ですが現代人の心により適合するように、私なりに修正をを加えてあります点をご了承いただけますでしょうか。

人間の性格タイプを4つの機能から考察したユング

ユングのタイプ論(一部修正)

ユング心理学に馴染みのある方でしたら、上のような図をご覧になったことがあると思います。
ただし後述しますように、ユングのオリジナルから2ヶ所修正を加えています。

ユングは人間の心理的な機能を思考・感情・感覚・直観に大別し、人それぞれで各機能の活用の程度が異なると考えました。
ここで思考と感情、感覚と直観とが対概念になっているところがユニークな点です。

タイプ論の修正点1~意識・無意識の領域を「傾向」へと変更

各機能の詳しい説明に入る前に、修正点を明らかにしておきます。

ユングのタイプ論ではフロイトと同じく心の領域を意識と無意識とに分け、それを機能にも当てはめていました。
しかしこの分け方ですと、この図のように思考が主機能として機能している人は感情が無意識に追いやられる、つまり感情をまったく感じることができないという非常に極端な状態となってしまいます。

確かに感情を知覚することが苦手な人はいますが、そのような人でも感情まったく感じることができないケースはごく稀です。
ですから実情に添うように意識的・無意識的と「的」をつけて、傾向を表すものであるように修正しました。

タイプ論の修正点2~感情と直観を逆に

2つ目は修正と言うほどのものではありませんが、オリジナルの図の感情と直観の位置を入れ替えました。
もっとも多く活用するのが思考で、その次が直観ではなく感覚というのが現代人の典型的な心のパターンであると考えられるためです。

思考優位にならざるを得ない現代社会

修正点の説明を終えましたので、ここから本題です。
なお大部になりますので今回は思考と感情についてのみ触れます。

科学的・合理的思考が重視され、かつ特にビジネスや公の場では感情を顕わにすることが忌み嫌われる傾向にある現代社会において、このような社会に適応しようと思えば必然的に思考優位の状態にならざるを得ないと思われます。
(ですからタイプ論の概念は、ユング自身の考えは別にあるかもしれないとしても、私自身は気質と呼ばれる生まれ持った性格傾向ではなく、その後の環境の影響を受けて形成される、ある程度歳を重ねた状態の心の状態を表すのに適した概念ではないかと考えています)

判断や評価には思考だけでなく「感情」の機能も必要とされる

ここで思考と感情とが対概念になっているのは、例えば極度の興奮状態など感情に圧倒されている状態では物事を冷静に考えるのは困難であることを考えると納得がいきます。
それゆえ私たちは考え事をするときには感情を極力抑え、冷静になって考えを巡らせようと努力します。

ところがユングは、この対概念と矛盾するようなことを言っています。
それは物事の評価に感情の機能が欠かせないというものです。
評価という行為は思考の産物であるにも関わらず、それには感情の機能が欠かせないとユングは言っているのです。

しかしこの点についても人間関係のことを思い浮かべれば納得がいきます。
上述のように現代人には思考優位の傾向がありますが、世の中にはその傾向が極端に進み感情がまったく感じられないような人がいます。
そしてそのような人のことを「何を考えているのか、さっぱり分からない人」と感じます。

ですがこれは考えてみれば不思議なことで、分からないのは感情的なことのはずなのに「考えていること」の方を分からないと感じていることになります。
このことから普段意識していないだけで、実は私たちは思考内容に加えて感情的な情報を頼りに価値判断を行っているのではないかと考えられます。
ですから上述のユングの指摘は、とても的を得ていることになります。

だと致しますと、もしビジネスの世界などで求められる冷静な判断というものが、感情を切り離し合理的な思考のみによって行われているのだとすれば、その価値判断は本当に適切なものと言えるのか疑わしいことになって来ると思われます。
例えばその典型的なタイプと考えられる、ロボットのように無表情な人の考えに従った方が、いつも物事が上手く進むでしょうか。

次回はまず先に、タイプ論のもう一方の軸の感覚と直観について触れ、その次の機会に感情の大切さについて記事にする予定です。

ユングのタイプ論 参考文献

C.G.ユング著『タイプ論』みすず書房、1987年
M‐L.フォン・フランツ著、J.ヒルマン著『ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能』創元社、2004年

補足)ユング自身の著書はけっこう難しいので、弟子のフォン・フランツとヒルマンの解説書の方が分かりやすいです。

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