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リハネンが開発した弁証法的行動療法におけるマインドフルネスの技法と効果

リハネンが開発したものとは異なる技法のマインドフルネスが世間に広がっている

今回の記事は、以前に「ストレス耐性を高めるマインドフルネスのすすめ」でも紹介したマインドフルネスを再び取り上げます。

以前の記事では、境界性パーソナリティ障害の治療法の1つである弁証法的行動療法の開発者のマーシャ・M・リネハンが用いたマインドフルネスについて簡単に紹介しました。
しかし今世間に広がっているマインドフルネスは、リハネンのそれとは異なるもののようです。
そこで今回は2つの異なるマインドフルネスについて、技法や効果などを2回に分けて私なりに比較検討してみたいと思います。

リハネンが開発した弁証法的行動療法におけるマインドフルネスの概要

まず今回は今一度リハネンが開発したマインドフルネスについて、彼女の著書を引用しつつ振り返ってみたいと思います。

マインドフルネス(mindfulness)スキルはDBT(弁証法的行動療法)の中核である。(中略)これらは一番最初に教えられるスキルであり、(中略)これらのスキルは1年を通じて強調される唯一のスキルであり、(省略)(『弁証法的行動療法実践マニュアル』初版 P.144)

これらの記述から、境界性パーソナリティ障害の治療に特化した弁証法的行動療法において、マインドフルネスは最も重要なスキルと考えられていることが分かります。

禅宗からの影響が大きい

禅宗から最も多くの所を汲み上げているが、スキルはほとんどの西洋的・東洋的瞑想の様式と合致している。(同書 P.144)

この禅宗からの影響の大きさが、次回紹介する世間一般に広まっているマインドフルネスとの違いを生み出していると考えられます。

目的〜座禅を行うことで自分を客観視する能力(観察自我)を強化する

前回のマインドフルネスの記事にも書きましたように、弁証法的行動療法におけるマインドフルネスでは、自分の心の中で生じている事柄、具体的には考え、感情、感覚、記憶の想起などについて評価を下すことなくただ観察するという方法をとり、これはマインドフルネス「把握」スキルと呼ばれています。(同書 P.144)

この心の中で生じている事柄について、評価を下すことなくただ観察する態度は、禅宗の座禅に非常に近いものです。
違いがあるとすれば、私の理解では、禅宗における座禅が、あらゆる執着を手放すための修行として行われるのに対して、弁証法的行動療法におけるマインドフルネスでは、同じようなスキルを(精神分析では観察自我と呼ばれる)自分を客観視する能力を強化するために用いること、つまり目的が異なるということです。

自分を客観視する能力を強化することのメリット

なおこの自分を客観視する能力を強化することのメリットは、(これは弁証法的行動療法が登場する以前から臨床心理の場で知られていることですが)例えば観察する対象が極度の不安や寂しさなどの非常に辛い感情であった場合、その感情を観察することで、観察されている感情と、それを観察している自分とを分離できることです。

私たちは極度の緊張や恐怖などからパニックに陥った場合、普段の冷静さを完全に失い、自分が今何をしているのかさえ分からなくなってしまいます。いわゆる頭が真っ白の状態です。
それに対して前述の自分を客観視できている状態では、たとえそれがどれほど辛い状況であったとしても、自分が今どのような状態にあるのかを把握できています。つまり冷静さが保たれています。

この後者のように、どのような状況に置かれても自分を客観視し冷静さを保っていられることで、様々な精神的苦痛にも余裕を持って対処できるようになる、これが弁証法的行動療法におけるマインドフルネスが目指す心理状態と考えられます。
なぜなら境界性パーソナリティ障害の人は、心が非常に不安定なことから、冷静さを失う頻度が著しく高いと想定されているためです。

ただしこれは「常に」自分を客観視し冷静さを保っていられることを要求するものではありません。
そのような完全な状態を目指すのではなく、今の状態よりも改善が見られ、日々の生活が楽になればそれで十分なのです。

「すべてをあるがままに受け止める」禅の思想の影響

最後に注目すべき点は、弁証法的行動療法におけるマインドフルネスでは、精神的なストレスを減らすことを直接の目的とはせずに、むしろ精神的なストレスが生じていても冷静さを失わず、そのストレスに耐えられさえすれば良いと考えられていることです。

この考え方などにも「すべてをあるがままに受け止める」禅の思想が反映されているように思えます。

次回は世間一般に広まりを見せている別の形のマインドフルネスについて、弁証法的行動療法におけるマインドフルネスと比較しつつ紹介したいと考えています。

弁証法的行動療法におけるマインドフルネス 引用文献

マーシャ・M. リネハン著『弁証法的行動療法実践マニュアル―境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ』、金剛出版、2007年

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