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現在の科学水準では発達障害その他の精神疾患の診断は恣意的なものにならざるを得ない

  • 2018年6月15日
  • 2021年11月19日
  • 発達障害
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以前に「発達障害の、すべての問題の原因を脳の機能障害とする説への疑問」という記事を書きましたが、そこで紹介した『ウタ・フリスの自閉症入門』を読み終えましたので、その要点を何回かに分けて紹介します。

ウタ・フリス著『ウタ・フリスの自閉症入門―その世界を理解するために』

発達障害は未だに検査では判別できない

恐らく、ひとたび何らかの生物学的検査が行えるようになれば、出生前に診断することができるでしょうが、そのような検査ができるようになるのは、まだずっと先のことのようです。(『ウタ・フリスの自閉症入門』P.25)

現時点で生物学的検査が行えないのは、前回の記事で該当部分を引用しましたように、自閉症の原因や脳の構造に関して、はっきりしたことは未だによく分かっていないためです。

また出生前診断について触れているのは、行動上の異変が現れ始めるのは出生後しばらく経ってから(多くは生後24ヶ月以降)だとしても、脳の何らかの異常は出生以前から生じ始めていると考えられているためです。

行動的基準に頼らざるを得ないため、診断の曖昧さは避けられない

行動的基準に頼らないと(自閉症か否かを)診断できないということは、診断が曖昧になることは我慢して受け入れざるを得ないことを意味しています。
あらゆる子どもの間にみられる個人差の幅は非常に大きいので、経験のある臨床家でさえ、あまりに早期に診断分類の判定を迫られると誤診しかねません。(同書 P.25)

マスメディアで発達障害が取り上げられると、しばしば医師から「現時点では判断がつかない」とグレーゾーンのような診断を告げられ当惑されている方の話が紹介されますが、その理由は引用文のような事情が存在するためと考えられます。
このことを以下で少し詳しく説明していきます。

現時点では精神疾患の判定はチェックリスト(診断項目)で行われている

これは他の精神疾患にも等しく当てはまることですが、ある精神的な疾患に該当するか否かの判断は、現在の科学の水準では検査によって判定することは困難であるため、問診と呼ばれる聞き取り調査によりそれを行っています。
またその内容は当事者が自覚していることと、医師をはじめとした他者から観察可能な事柄に大別され、行動的基準は後者に該当します。

そしてその判断の拠り所となるのが、最近はチェックリストなど称してネット上でも公開されている診断項目であり、例えば10個の項目のうち5個以上に該当すれば、その精神疾患を罹患しているものとみなすというような使われ方をしています。

精神疾患のチェックリスト(診断項目)は機械的に正確に判定できるようなツールではない

このチェックリストに基づくことで、精神疾患を機械的に正確に判定できるように思われるかもしれませんが、残念ながらまったくそうではなく、フリス氏も述べているように、その診断は曖昧なものとならざるを得ません。

なぜなら、どれほど緻密なチェックリストを開発したとしても、最終的な判断を人間が行う限り、そこには恣意性が入り込まざるを得ないためです。
これは人間がロボットとは異なり、主観を一切排除して純粋に物事を観察することができないためであり、さらにこのことは同じく人間である以上決して逃れられない、つまりどれほど努力しても完全には克服できない事柄であるためです。

補足)このため今後は、人工知能や画像解析技術の急速な進歩により、こうした診断行為はいずれ機械に代替されていくことが予想されます。
(実際、職業の未来予測において、医師は50年後には消滅する職業のリストに入っています)

診断が恣意的なものでも価値が認めれるのは、専門家としての医師の能力への信頼があるため

なおこのような実情を知ると、今度は診断というものが、いい加減で当てにならないもののように思われるかもしれませんが、それでも医師の診断に価値が認められているのは、医師が専門的なトレーニングを受け高度なスキルを有した専門家とみなされているためです。

また医師免許が国家資格であることも、国がその専門性の効力を認めている証であり、この点も医師が下す診断に対する信用力の担保になっています。

発達障害の個人差の大きさが、医師の診断に関する慎重な姿勢を生み出している

以上のように精神疾患の診断行為には、現時点では客観性において大きな限界がありますが、発達障害では加えて『ウタ・フリスの自閉症入門』でも指摘されているように、他の精神疾患以上に個人差が大きいようです。
このことが診断の恣意性をさらに増大させる要因になるでしょうから、この点を考慮して医師が診断に関して非常に慎重になり、確定診断をためらう一因となっているのではないかと考えられます。
しかしそれも現在の科学技術の水準では致し方ないことなのです。

24ヶ月未満の発達障害の診断は大幅に精度が落ちる

さらに24ヶ月未満という早期の発達障害の診断は、大幅に精度が落ちてしまうようです。

子どもが24ヶ月で診断されたら、その診断はどれくらい信頼できるのかという問いに研究者たちは取り組みました。研究者たちは、その診断が2年後にもやはり正しいと確認される可能性はどれくらいあるのかを調査したのです。
その結果、過半数の場合で、その診断の正しさは確かに裏づけられましたが、3分の1の症例では結局は自閉症とはみなされませんでした。

親御さんとしてはできるだけ早期の診断を望まれるでしょうが、この調査結果のように24ヶ月未満という早期の発達障害の診断は、かなり精度が落ちてしまうため、この段階での確定診断は難しいようです。

なお診断に関する医師の慎重な姿勢には、発達障害が現時点では治療不可能な疾患とみなされていることの影響も大きいと考えられます。
次回の発達障害をテーマとした記事では、この影響について考察する予定です。

引用文献

ウタ・フリス著『ウタ・フリスの自閉症入門―その世界を理解するために』中央法規出版、2012年

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