セクハラとパワハラに関する記事の2ページ目は、主にパワハラに関する内容です。
1ページ目の冒頭で提示した2つのセクハラの事例には、いずれも加害者がその業界の有力者であったため、被害者がなかなかNoと言えず問題行為が発生してしまったものです。
この意味で両事例は、パワハラを起因としたセクハラの事例とも言えます。
そしてこのパワハラの温床となるのが、様々な形で生じる人間関係における力の不均衡です。
この力の不均衡は、パワハラの概念が広まる前から問題視され、その研究領域の1つが経営管理論の1分野であるリーダー論です。
職場における人間関係の重要性を明らかにしたホーソン実験
大学などで経営学を学ぶと、経営管理論の最初の段階でホーソン実験という事例を学びます。
これはアメリカのウェスタンエリクトリック社のホーソン工場で1924年~1932年の間に行われた実験で、その目的は作業環境と生産性との関連を調べることでした。
もっとも、ここでの作業環境とはもっぱら物理的な環境を指し、そのため照明の明るさを変える実験などが繰り返されましたが、結局分かったことは生産性に最も大きく関連しているのは物理的な条件ではなく人間関係の良し悪しでした。
ホーソン実験はやがて後世の研究者により、実験手法や結果の解釈などについて批判を浴びることにもなりますが、それでも当時まったく念頭に置かれていなかった組織における人間関係の重要性に焦点を当てたという点で画期的な実験でした。
またそれに加えて、この当時は仕事とは誰しも生活のために嫌々行うものであるため、しっかりと管理する必要があり、またモチベーションを高めるのは賃金のみであると考えられていたため、それだけではなく仕事に対するやり甲斐を人々は求めていることが明らかになり始めたことも実験の収穫でした。
理想的なリーダー像を求める中で生まれた、同僚のように対等な関係
こうして組織における人間関係の重要性が認識された結果、部下に対する上司の接し方などを研究するリーダー論などが生まれていきましたが、そうした研究の中から生まれた理想的なリーダー像の1つに同僚のように対等な関係の実践があります。
上司と部下という垣根を超えて、気兼ねなく何でも言い合えるような関係を目指すリーダー像です。
ところが皆さんもご経験があると思いますが、上司からどれほどお互いに対等な関係であることを強調されたとしても、決して同僚に対してと同じように感じることはできなかったはずです。
この理由を説明するのに適した理論の1つがプロセスワークのランクの概念です。
プロセスワークのランクの概念〜立場や属性の違いそれ自体が、必然的に力の不均衡を生み出す
プロセスワークとは、ユング派のトレーニングを受けたアーノルド・ミンデルが生み出した思想で、日本に紹介された当初はプロセス指向心理学と呼ばれていました。
その特徴はチャンネルという概念を用いてユングの無意識の理論を大幅に拡張したことにあります。
そして、そのチャンネルの1つが人間関係で、ランクはそこにおける無意識的な作用を説明する概念の1つです。
プロセスワークのランクの理論が果たした貢献は、立場や属性の異なる人同士の関係では必然的に力の不均衡が生み出され、その不均衡は当事者がどれほど努力しても消滅することはない点を明らかにしたことです。
このランクの理論に従えば、前述の上司と部下の垣根を超えた対等な関係を目指すどのような試みも、上司と部下という役割それ自体を消滅させない限り、その役割の違いから生まれる力の不均衡が存在し続け、その不均衡が職場の人間関係に多大な影響力を及ぼし続けることになります。
またこの上司の役割の特性をリーダーから例えばファシリテーターに変えたとしても、ファシリテートする側とされる側という「立場の違い」が以前として存在しているため、完全に対等な関係にはなり得ません。
つまり力の不均衡のあり方が変化するだけで、不均衡自体が消滅するわけではありません。
補足)たとえ力の不均衡が残り続けたとしても、そのあり方は変化するわけですから、ファシリテーター制度自体がまったく無益というわけではありません。
このためランクの理論では不均衡をなくすのではなく、むしろそれを所与のものとして受け入れ、その存在を常に意識して関わることを推奨しています。
つまりランクの理論では、決してなくなることのない力の不均衡に無自覚になることを問題視し、それがパワハラの大きな要因であると想定されています。
またこのような解釈に至るのも、プロセスワークという思想が個人的・集合的双方の無意識の作用を重視しているため、パワハラについても確信犯的に力を行使するケースよりも、無自覚にそれが行われるケースの方が念頭に置かれているためではないかと考えられます。
次のページでは、このランクの理論の勧めに従い、私なりのパワハラの予防策を提示する予定です。
参考文献
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