ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』

新型コロナウイルスの特性に反して、特定の職種からの感染のみを極度に恐れる心理の考察

新型コロナウイルスの感染リスクに関する人々の反応を考察する記事。
1ページ目では感染リスクに関して相矛盾する行為が見られることを、2ページ目ではその矛盾した現象を生じさせていると考えられるスプリッティングという心の働きについて述べました。

このページでは、そのスプリッティングの概念を用いて、これらの矛盾した行為の解釈を試みます。

3ページ目目次:
対象を「安全」な存在と「危険」な存在とに二分
スプリッティングによる、感染リスクへの矛盾した反応の解釈
投影が「思い込み」を維持・強化する

対象を「安全」な存在と「危険」な存在とに二分

スプリッティングの作用あるいは目的は、物事を心地よいものと不快なものとに二分し、自分の心や周囲の環境を心地よいものだけで満たし、不快なものはすべて排除してしまうことで安心感を得るというものです。

そして今回取り上げた新型コロナウイルスの感染リスクにおけるスプリッティングの基準は、安全vs危険ということになります。

スプリッティングによる、感染リスクへの矛盾した反応の解釈

この安全vs危険という基準に基づくスプリッティングが働くと、家族や職場の同僚など自分の身近な人々は、マスクなどしなくても感染の心配がない、極めて安全な人物とみなされることになります。

しかしその一方で、それ以外の見知らぬ他人、特にメディアから得られる情報などにより感染リスクが高いと想定される一部の職種の人々は、たとえマスクその他の予防措置を講じていたとしても、いつ感染してもおかしくない極めて危険な人物とみなされることになります。

これが一部の職種の人々に対しては、地域から排除するために激しいバッシングが浴びせられる一方で、ソーシャルディスタンスに配慮しているとはとても思えないような飲食店にまで大勢の人が詰めかけ、マスクをつけず肩寄せ合うようにして会食を楽しむ光景が見られる要因ではないかと考えられます。

投影が「思い込み」を維持・強化する

ちなみにメディアからは、会食を原因とした集団感染の発生がしばしば報道されていますし、感染リスクが高いと想定される職種では、危機感から相当厳重な対策が講じられているため、むしろ感染リスクは平均以下なのではないかとの、感染症の専門家の見解も伝えられています。

しかしこうした情報は、スプリッティングが作用している人々に対してはほとんど意味を成しません。
なぜなら2ページ目でも触れましたように、スプリッティングが作用している人々の心の中では同時に投影と呼ばれる現象も生じているためです。

投影とは、現実が心の中で思い描いた通りのものになっていると錯覚する、つまり思い込みを生じさせる作用ですが、スプリッティングを多用する人は、この思い込みの度合いが確信と言えるほど非常に強固になる傾向があります。

このため自身の見解に反する情報は無視されることになりますが、反面その見解と合致する情報は「やはりそうか」と無条件に支持されることになります。
こうして一度生じた思い込みは維持・強化されてしまうため、どれほどバッシングが問題視されてもなかなか解消しないのではないかと考えられます。

参考文献

ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』、創元社、2005年

ナンシー・マックウィリアムズ著『パーソナリティ障害の診断と治療』
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