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デートDVの加害者の心理と対処法

先週のNHKEテレ「オトナノベル」で、モンスター彼女のデートDVが取り上げられていました。
束縛愛とも称される相手の負担になるほどの過剰な愛情を向け、多くの場合、心理的・身体的な暴力を伴う現象です。
今晩9月12日(月)深夜24時25分~24時55分に再放送されますので是非ご覧ください。

今回はデートDVの加害者の心理と対処法に絞って考察します。
と言いますのもDVに関しては被害者の方にも問題があることが多いためです。

またNHKの番組ではモンスター彼女が取り上げられていましたが、もちろん同じことは彼氏のケースも多々あります。

デートDVの加害者の心を支配しているのは攻撃性ではなく、むしろ見捨てられ不安などの非常に強い不安

まずデートDVでは今回もモンスターという表現が使われていますように、加害者の攻撃性に焦点が当てられがちです。
ですが、たびたび援用する自己心理学の観点からは、その攻撃性は不安その他の辛い感情から生まれた二次的な症状に過ぎないと考えられており、私もその見解を支持しています。

例えば被害者の方が返答に困る典型的な質問として「私と○○とどっちが大事なの!?」というものがあります。
この質問が非常に強い口調で行われるため、相手の方は責められているような感覚に陥り、そのため自分が攻撃されているように感じられます。

ですがこのようなとき自己心理学で想定されているのは不安です。
具体的には自分が愛されているという確信が持てず、その不安から相手の愛情を確かめずにおけない、その確認のための質問ということです。

またこの不安は「いずれ別れを切り出されるに違いない」との予測を生み出すこともあり、その予測が自殺を考えたくなるほどの絶望的なまでの気持ちに陥らせることにもなります。
これはデートDVに該当するような行為を行う人は、強い愛情への飢餓感から他人を疲弊させてしまうため交友関係が非常に狭いことが多く、それゆえ親しくなった人は決して失ってはならない「かけがえのない存在」となるため、その存在を失うことで一人ぼっちになってしまうとの思いを生じさせるためと考えられます。

またこうした対人関係の飢餓感が、見捨てられ不安とも呼ばれる関係が断たれることへの非常に強い不安の一因となり、しがみつくような態度を生じさせもします。

デートDVの加害者は自己評価が非常に低く、それを補うために常に他人の愛情を必要としている

次にデートDVの加害者のこのように非常に強い不安や愛情への飢餓感の背景には、自己評価の低さが想定されています。
自己評価が非常に低く、かつそれを自分の力で高めることができない、そのため他人の力を借りる必要が出てくるというわけです。

もっとも自己評価を高める目的に適う手段は愛されること以外にも、存在価値を認めてもらう、褒めてもらうなど複数存在します。
それが愛情一辺倒になりがちなのは、他の手段では十分には自尊心が回復しないほど自己評価が非常に低く、かつそれらの働きかけを自尊心の回復に活用できるほどには心が育っていない、つまり心理的に非常に未熟であることが窺えます。

このためデートDVの当事者間に発生あるいは期待させている愛情とは、対等な関係から生じる相互の愛情というよりも、母親から赤ちゃんに一方的に注がれる愛情、つまり愛着に近い関係が生じていると考えられ、これがそのような関係を望んではいない被害者の方にとって大きな負担となります。

補足)ここでの未熟さの記述は加害者の方の精神年齢が乳幼児並みという意味ではなく、子どもの心の部分が未だに強い影響力を持っているという意味合いです。
自己心理学はダニエル・スターンの発達論を取り入れており、スターンの理論では人間の心は子どもの心が失われて大人へと成長して行くのではなく、それを残したまま大人の部分が積み重なっていくと考えられています。
つまり子どもっぽい印象を与えるのは両者のバランスの問題ということです。

自己中心性および非共感性

またデートDVの加害者の方のもう一つの特徴として、自己中心性非共感性を挙げることができます。
例えば「私と○○とどっちが大事なの!?」と問い質す例で説明しますと、その○○は相手にとって非常に大事なものですから、自分の都合を優先してもらうことは相手に多大な損害を与えることになります。
ですからそう簡単には聞けないことのはずなのですが、それを感情に任せて躊躇なくできるということは関心が自分の辛さの解消にしかないという点で自己中心的、また相手の立場に立って物事を考えることができないという点で非共感的と言えます。

過剰に注がれる愛情らしきものは、相手の愛情を得るための手段に過ぎない

さらに番組のドラマに登場したモンスター彼女もそうしていましたが、デートDVの加害者の方は愛情らしきものをそれも過剰に注ぐことがしばしばありますが、このような行為も多くの場合相手の愛情を得るための手段に過ぎません。
ですからドラマのモンスター彼女も、何かしてあげて彼が喜んでくれないと怒りを爆発させていました。

加害者の切実感が被害者に罪の意識を生じさせ、その罪の意識から相手の言いなりにならざるを得なくなって行く

次に記述のように加害者の心を支配しているのは見捨てられ不安その他の非常に強い不安であり、しかもその不安を感じているのは母親の愛情を必要とする乳幼児レベルの心の部分と想定されるため、その不安から生まれる切羽詰まった表情や幼い印象などから、加害者の方は頭では無理難題を押し付けらえていると分かってはいても、その望みを叶えてやらない自分の方に非があるように思えてきます。
これが相手の迫力に加えて、渋々でも相手のペースに巻き込まれていく最も大きな要因と考えられます。

対処法~愛着関係を受け入れられるか否かが焦点

最後にデートDVへの対処法についてですが、ここでは法律的なこと以外のこととして、心構えについて触れておきます。

デートDVをはじめとしたDVの被害者の方からの要望として円満な関係の構築を求められますが、これまで考察して来ましたように切羽詰まった状況で愛情を得るために必死に格闘している、しかも小さな子供の心の部分が活性化された状態の相手とそのような関係を望むのは困難であり、また求められているのは愛着に近いこちらから一方的に愛情を注ぐような関係ですから、そのような関係を容認できるか否かが焦点となってくると思われます。

もちろんこのような関係が一生続くとは限らず、献身的な働きかけによって心の成長が促され将来的に改善してくる可能性は十分にありますが、それは数か月から数年先のことと考えられます。

実際の相談でも、これらのことを伝えてお客様に今後の方針を検討していただいております。

参考文献

D.N.スターン著『乳児の対人世界 理論編』、岩崎学術出版社、1989年

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