一昨日NHKで放送された「あさイチ」の特集「DV 加害者の声から考える対策」をSNSで紹介する際に、次のようなコメントを添えました。
番組で紹介されている要因などは、あくまで典型例です。
例えば男性のDVのすべてが「男らしさ」への過剰なこだわりから生じるわけではありません。
また加害者の子供の頃の養育環境が原因の根本とも限りません。
今回はこれらの理由について詳しく書きます。
DVの定義は他者から観察可能な現象の記述であり、背後にある心理を説明するものではない
まず、これはDVに限らず、すべての精神疾患などについても言えることですが、そこで定義されている内容は、あくまで他者から観察可能な現象面の記述であり、その背後で働いていると推測される目に見えない心理的な要因を記述したものではないということです。
これは何を意味するかと言いますと、DVを例にとりますと、そこに記されている暴力的な内容に当てはまりさえすれば、それがどのような要因によって生じたとしてもDVとみなされるということです。
補足)ただしWikiのドメスティックバイオレンスの概要にもありますように、膨大な量の特徴が列挙されてはいますが、それらにどの程度当てはまればDVとみなされるのかについての基準がなく、その判断は非常に曖昧です。
不特定多数の人に情報発信するマスメディアの事情からの限界
しかしマスメディア等でDVが取り上げられる際には、単に定義だけでなく要因にまで踏み込んだ説明がなされることがほとんどです。
これは当事者の方からすれば、どのようなことがDVに該当するのかだけでなく、その治療や対処方法なども知りたいと思われるでしょうから、そうしたニーズに応えようとすれば要因についても触れざるを得なくなるためです。
ところが人間の心は複雑かつ多様性に満ちているため、DVに該当する現象が生じていたとしても、その要因は人それぞれで微妙にでも違いがあります。
しかし「人それぞれで違う」という情報では、当事者の方にほとんど役立たないでしょうから、多様な要因の中から典型的なケースを選び出して提示せざるを得なくなります。
これは不特定多数の人に情報を発信するマスメディアの性質上、致し方ないことです。
ですがこの典型例が一人歩きし始めると、番組でも示されていたような所有欲や特権意識、被害者意識などが強い自己愛的な性格の人のみがDVを引き起こすというような誤解が生じ兼ねませんが、実際は(実数は少ないと考えられますが)暴力に快感を覚えるような反社会的な性格の人も世の中にはいます。
また同じく番組で取り上げられていたDV加害者更生プログラムなどの支援団体の活動も、その効果は加害者自身の自己洞察能力やモチベーションに大きく左右されますので、決して万能的な解決手段とはなり得ません。
これは支援団体の能力の問題ではなく、あまりに重症の人や変わる気のない人を他人の力で変えることは、専門的なスキルを持ってしても相当困難であるということです。
以上のような限界を踏まえた上で、専門家の情報や支援をご活用いただけたらと思います。
もちろん今回指摘したことは本サイトの記事にも等しく当てはまります。
個別のカウンセリングでは個々のニーズに合わせた情報をお伝えすることは可能ですが、記事でそれを行うことは残念ながら不可能なためです。
例えば以前に書いた「デートDVの加害者の心理と対処法」という記事も、あさイチの番組と同様、自己愛的な病理のみを念頭に置いて記述しています。