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子育てなど環境の影響を強調し過ぎたことで、アダルトチルドレンの他罰主義的思想などを助長してしまったコフートの自己心理学

今回は「私説:あまりに大人びた子どもの態度は親子の役割の逆転現象を促す」の最後で告知した、コフートの自己心理学の考えがもたらした弊害についてです。

初回の今回は、コフートが子育てなど環境の影響をあまりに強調し過ぎたことで、他罰主義的な思想を助長してしまった可能性があることについて書きます。

人間の性格は気質と環境からの影響との相互作用で決まるとの考え方が主流

人間の性格形成に関しては様々な理論が存在しますが、大学の発達心理学の教科書などを読みますと、気質と呼ばれる生まれながらに有する大ざっぱな性格傾向と、その後の両親をはじめとした人との関わりなど環境の影響との複雑な相互作用によって形作られるとの考えが主流のようです。

これは至極妥当な考え方だと思います。
2人以上のお子さんを産んだ経験のある方でしたら、産まれた瞬間の赤ちゃんの様子に明らかに違いが見られることがあったかと思いますが、これが気質の現れと考えられます。

また、もし生まれながらの気質によって既に性格が決定されているのだとすると、どのような環境の元で育ったとしてもその影響を一切受けないこととなり、したがって法律に抵触さえしなければどのような子育てをしても構わないという結論が引き出されますが、これも信じ難いことではないでしょうか。

別名「悪い母親理論」と呼ばれるコフートの自己心理学

ところがコフートは気質についてはほとんど言及せず、もっぱら環境それも親の関わり方を問題としました。
このためコフートの自己心理学は別名「悪い母親理論」と呼ばれています。
もっともこれは子育ての責任をすべて母親に負わせるという意味ではなく、母親の役割を担う人との関係が子どもの性格形成に決定的な影響を与えることを示唆したものです。

アダルトチルドレンの他罰主義的な思想に影響を与えた可能性

精神分析の文献を読んでいますと、このコフートの理論は同じく環境因を重視したウィニコットの理論とともに、内輪の精神分析界のみならず精神保健の分野をはじめとした社会に非常に大きな影響を及ぼした旨の記述をよく見かけますが、その具体的な現れの1つがアダルトチルドレンの概念ではないかと私は思っています。

ご承知のようにアダルトチルドレンの概念は、個人の病理的な心理の発生要因をもっぱら機能不全家族と呼ばれる不健全な家庭環境に求めるものであるため、私の知る限り気質の影響は一切考慮されていません。

このためアダルトチルドレンの概念は、子どもの頃にいろいろと辛い思いをした人々に癒しをもたらした反面、当事者の方々の間に自分の人生が上手く行かない原因をすべて親や兄弟姉妹のせいにする極端に他罰的な発想をも生み出してしまいました。
つまり「あなたは何も悪くない。悪いのはすべてあなたの家族で、あなたはその可哀想な犠牲者。」との意味合いで受け取られてしまったのです。

もっともこのような極端な発想は受け手にも問題があるとはいえ、こうなってしまったのもコフートと同じく環境因ばかりを強調してしまったためと考えられます。

「私は何も悪くない」と思う人は心理的な成長を止め、更なる困難を招いてしまう

心理療法の仕事を始めてから12年が経ちますが、この短い期間だけでも「私は何も悪くない。悪いのは他人や社会で、自分はその犠牲者」と考える人が増えているだけでなく、そのような考え方をマスメディアを通して専門家が肯定するようになって来ていることに危機感を感じています。

なぜなら、自分には一切非がないと思っている人は、反省するべきなのは常に自分以外の誰かであり、自らは被害者として無条件に救済される存在と確信しているため、心理的な成長を止めてしまうことで更なる困難を招いてしまいかねず、そうしてますます他人や社会への恨みを募らせて行くという悪循環に陥ってしまうことが予想され、これはその人にとっても社会全体にとっても何の得にならないように思えるためです。

当初は考えが異なっていたコフート

もちろんこうした社会の潮流がすべてコフートのせいであるわけではありませんが、それでもコフートのことを引き合いに出したのは、彼が当初は私から見ればもっとバランスの良い考え方をしていたように思えるためです。
次回はその点について触れたいと思います。

自己心理学 参考文献

最後にコフートの自己心理学の入門書として、和田秀樹さんの著書を上げておきます。
これから心理学を学ぶ大学生に向けた講義を下敷きにした本ですので、特に心理学の知識を必要としないと思います。

和田秀樹著『「自己愛」と「依存」の精神分析―コフート心理学入門』、PHP研究所、2002年

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