少し間が空いてしまいましたが、今回は「誰もが良好な人間関係に恵まれるとは限らない」の最後に予告した「メディアなどから発信されるコミュニティ作りの成功事例は鵜呑みにすべきではない」ということについて書きます。
「人は孤独なると心を病み、誰かとコミュニケーションすることで健康を取り戻し幸福になる」という考えが急速に普及
数年前からマスメディアなどで、今回のテーマである「コミュニティ作りの成功事例」が盛んに紹介されるようになって来たように感じられますが、その背景には「人は孤独なると心を病み、誰かとコミュニケーションすることで健康を取り戻し幸福になる」という考えが急速に普及し、多くの人の間で信じられるようになっていることがあるように思えます。
このコミュニケーションに関する考えが「どのような状況でも常に当てはまる根本原理」と言えるほど極度に一般化されるようになって来たため、コミュニケーションを活性化させる(=量を増やす)ニーズが増大し、そのニーズの増大に応えるためにコミュニティ作りの試みが盛んに行われるようになり、その試みが脚光を浴びるようになって来ているというのが昨今の現象ではないかと考えています。
良いと思えることを紹介する際には、よほど注意しない限り、良い点ばかりを伝えてしまう
次にそのコミュニティ作りの試みの紹介のされ方についてですが、私の印象では成功事例は盛んに紹介される反面、上手く行かない可能性もある点についてほとんど触れられていないように思えます。
しかしこのような情報の偏りの多くは意図的なものではなく、むしろよほど注意しないと生じてしまう類のものです。
この傾向は普段の私たちの行動を思い浮かべれば、よく分かります。
例えば誰かにオススメの情報を伝えようと思った時には、どのようなことを伝えるでしょう。
恐らくそれがいかに素晴らしいものであるのかを多少なりとも興奮しながら伝え、しかしその反面、多少気がかりなことがあったとしても、それも同じように伝えるとは限らないはずです。
このように情報の伝え方に大きな差が生じてしまうのは、目的が正確な情報の伝達ではなく「こんなに良いものがあるよ」というオススメ情報の伝達であるためです。
メディアで良い面ばかりが伝えられがちなのは、受け手のニーズを反映したものでもある
もっともマスメディアには、たとえ報道番組ではなかったとしても情報の正確性が求められます。
しかしそれにも関わらず、実際には物事の良い面ばかりが伝えられがちです。
このような好ましくない状況は制作者の倫理観だけでなく、その情報の受け手のニーズの影響を強く受けてのものと考えられます。
なぜなら私たちは報道に対しては情報の正確性を強く求める反面、それ以外の情報に対してはその欲求が大きく減退し、むしろ気分が良くなったり、あるいは自分の期待するような情報を求める傾向があるためです。
今回のテーマで言えば、コミュニケーションに関する様々な問題を感じている方が、それを解決してくれる魔法のような方法を求めたり、あるいは単にポジティブな気分になるような情報を求める、そうした人々のニーズを受けて「今コミュニケーションの問題を解決できるこんな素晴らしい方法が注目されている」という情報が、上手くいっている事例の良い面ばかりが強調されて伝えられることになります。
成功事例の「良い面ばかりを強調する」手法はいたるところに存在している
もっとも、このような成功事例のみを紹介する手法はビジネスの世界では広く見られますし、それだけでなく臨床心理の世界における事例発表でも珍しくありません。
ですからそれらの情報を額面通り受け取ると、そこで提示されている方法を忠実に実行するれば必ず上手くいくかのような錯覚に陥ることになります。
ですから大切なのは、何かの成功事例が紹介される時には必ず「良い面ばかりを強調する」というバイアスが働いていることを認識し、ご自身で「本当にそうなのか」と疑問を持ち考えることです。
次回は、ではコミュニケーションに関する成功事例の中で、どのようなことが触れられることがないのかについて、私の臨床経験から得られた情報などを元に記事にする予定です。