鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』

スクールカーストの心理的要因~生徒、教師ともに自己愛的な性格構造の人が過半数を占めるような学校で形成・維持される

要約:スクールカーストと呼ばれる学校内で発生する序列関係の要因を、心理職での経験や私自身の学生時代との比較などによって考察し、そこに自己愛的な心理を想定。
また『教室内カースト』の実態調査からは、生徒のみならず教師もカーストの生成・維持に深く関与していることが推察できる。

私説:スクールカーストは自然に発生するわけではない

最初に以前にNHKEテレで放送された、今回のテーマに即した番組を紹介致します。

いじめをノックアウトスペシャル第12弾「スクールカースト」
【番組内容】
「スクールカースト」。教室内に自然と作られる上下関係に今、多くの10代が苦しんでいる。スクールカーストはなぜ生まれるの?なくすことはできないの?生放送で考える!

上述のリンク先の、スクールカーストを「教室内で自然と作られる上下関係」と捉える考え方についてですが、最近こうした人間関係の問題の要因を個人の心理以外に求める見解を非常によく見かけます。
ちなみにこちらについては「教師と生徒」と言うように公式に役割分担がなされているような状況を除けば、自然に生まれる上下関係その他の人間関係の特性など存在しないというのが私の考えです。

特にグループ全体の「何番め」というような細かい序列が存在する場合は尚更です。
そのような細かい序列が個々人の意思とは無関係に自然に発生するとは想定しづらく、したがってそこまでの細かい序列は、後述するように常に他者との比較に心を奪われているような心理状態から生み出されているものと考えられます。

追記) またスクールカーストを自然発生的な現象と捉える考え方は、多分に個々人の力ではどうにもならないとの諦めの思考へと結びつきやすく、その結果改善のためのモチベーションを低下させ、ますます問題を解決困難なものにしてしまう可能性があると考えられます。

補足) とは言え、学校の制度など構造面がスクールカーストの形成・維持に与える影響も無視できないものですので、そちらは別の機会に考察することとして、今回の記事では個々人の心理的な要因に限定して考察していきます。

スクールカーストの解消には、先ずはアウェアネスが必要

人間関係のあり方を意図的に変化させるためには、まずは個々人がそれぞれ自分がどのようにその人間関係の構造、特にその生成に関わっているのかを自覚する必要があります。
そしてそれを可能とするのが、アウェアネスとも呼ばれる、自分が何をしたり、あるいはどのような状態になっているのかしっかりと自覚できる能力です。

したがってスクールカーストを解消するためには、先ずは個々人がこのアウェアネスを高めていくことが有益ではないかと考えられます。
その結果スクールカーストという階層構造が、専ら自分を苦しめているだけでなく、もしかしたら何らかのメリットを作り出している可能性が見つかるかもしれません。

このように何らかのメリットが存在することによって苦しい人間関係が維持されることは、決して珍しいことではありません。

80年代の北海道の片田舎の学校に、スクールカースト的な人間関係は存在しなかった

またスクールカーストを自然発生的な現象とは考えないもう一つの理由は、私自身の経験にあります。
それが世代や地域の差によるものなのか定かではありませんが、私が学生時代を過ごした80年代の北海道の片田舎の学校では、スクールカーストという言葉はもちろんのこと、細かな序列など存在しませんでした。

もちろん「いじめ」は存在しましたし、人気者とそうではない人がいて、また学級内に複数のグループも存在していましたので、何らかの格差は常に存在していました。
しかし今問題視されているスクールカーストとの大きな違いは、そうした状況の中でも個々の生徒が自分の順位に心を奪われるようなことはなかったという点です。

スクールカーストの社会問題化は、社会(の構成員)全体の自己愛化の進展の証

前述の私自身の経験から、格差が存在すれば、その格差に心を奪われ支配されるようになることは必然的とは言えず、そうであるならばその要因は個々人の心理状態にあるのではないかと考えられます。

そしてその要因として思い当たるのが、自己愛講座1で精神分析的なパーソナリティの定義を紹介した自己愛性パーソナリティです。
この性格構造を有する人は、他者からの評価に心を奪われているため、その評価の重要な要素である「自分が何番めの評価を得ているのか」という点についても過敏に成らざるを得ないためです。

したがってこのスクールカーストという現象が社会問題とまでなっているということは、心理の世界のみならず社会学の分野などでも指摘されているように、70年代以降顕著になった社会(の構成員)全体の自己愛化が、止まることなく進行し続けている一つの証ではないかと考えられます。

就職後もスクールカーストの心性で苦しみ続ける人がいる

最後にスクールカーストとは、学校内カーストとも呼ばれるように、学校内の人間関係の特徴を表す用語ですが、実際は卒業して就職した後もこの現象に悩まされ続ける人が少なからずいらっしゃいます。

つまりこの現象は環境が変われば自ずと解消するというものではなく、このことからもスクールカーストという人間関係の現象が純粋に自然発生的なものではなく、個々人の心理がその発生に少なからず関与している証ではないかと考えられます。

2ページ目以降では、精神分析的な自己愛の理論を援用しつつ、スクールカーストの形成要因について具体的に考察して行きます。

鈴木翔著、本田由紀解説『教室内(スクール)カースト (光文社新書)』
最新情報をチェック!