今回は一昨日も放送されておりました東海テレビ制作のドラマ「火の粉」(フジテレビ系列で放送)や私自身の過去の出来事を例に、自己愛的な人の贈り物好きなことや承認・賞賛欲求の強さについて書かせていただきます。
贈り物のネクタイを気に入ってくれないことに腹を立て相手一家を殺してしまう人物の物語
まず番組をご覧になっていらっしゃらない方のために、簡単にあらすじを説明させていただきますと、ユースケ・サンタマリアさん演じる主人公の武内が日頃お世話になっている知人にネクタイをプレゼントしたところ、自分が期待していたほどには気に入ってもらえなかったことで深く傷つき、その恨みから相手一家を殺害してしまい、その後も同じように周囲の人を巻き込んでいくという物語です。
また主人公はドラマの中で「自分の好意を無にした罪に比べれば、私の殺人など小さな罪だ」と話しています。
これだけ聞くとサイコパス(反社会性あるいは精神病質パーソナリティ)のように思われるかもしれませんが、私の見立てでは、殺人の動機が自己愛を傷つけられたことへの恨みであることから、かなり重症とはいえ主人公は自己愛性パーソナリティの人物と思われます。
もしサイコパスであれば、殺人その他の犯罪行為に対して異様なほどの興奮を覚えるため、もっと安易に犯罪を犯すと考えられるためです。このことがサイコパスが快楽殺人者と言われる所以です。
誕生日のプレゼントを喜んでもらえず、遅刻を非難されたことで傷ついた私
もっともドラマはあくまでフィクションですので、実例として私の過去の出来事も提示します。
デザイン職をしていた頃のことです。親しい知人の誕生日が近いと知り、当時習っていたカリグラフィーでバースデーカードを作ってプレゼントしようと考えました。
ところが習い始めたばかりのため、なかなか上手く作れず、とうとう約束の時間になってしまいました。
しかし妥協はしたくなかったので、自分が納得行くまで仕上げ、結局2時間近く遅刻して、その方の待っているカフェへ行きました。
それでも自信作でしたので、とても喜んでくれると期待していたのですが、その方の反応は遅刻への怒りだったため、私はとてもショックを受けました。
しかし遅刻はその人のためを思って一生懸命カード作りに励んだ結果に過ぎないことなのに、そのことをまったく理解してくれず、なぜ遅刻したことばかりを非難されるのか、私にはまったく理解できませんでした。
そこで何とか理解してもらおうと自分の想いを伝え続けたところ根負けしたのでしょうか、最後にはお礼を言ってくれ私は満足しました。
ドラマ「火の粉」の主人公と私の行為から観察される自己愛的な人の特徴
上述のドラマ「火の粉」の主人公と私の行為からは、自己愛的な人の次のような共通の特徴を窺い知ることができます。
贈り物をすれば無条件に感謝されるとの思い込み
両者の共通点は、贈り物をすれば相手から無条件に感謝されると思い込んでいることです。
ですから予想外の反応にショックを受け、武内の場合は心を傷つけられた恨みから殺害にまで至ってしまいました。
武内は相手にも好みがあるということや、度を超えたプレゼント攻勢はかえって不快となることなどが、私は贈り物のためなら何をやっても大目に見てもらえるわけではないことを理解できなかったのです。
共感能力の欠如
上述の思い込みの件は、自分が大切だと思っていることは当然相手も同じように思っていると錯覚しているとも言え、その意味で両者には自分と他人とは異なる存在であり、それゆえ相手の立場に立って物事を考える、いわゆる共感能力が欠如していることを示しています。
承認・賞賛欲求が非常に高い
また贈り物への感謝の、もはや強要に近い期待振りは、自分の贈り物の価値を認めてもらいたい、それもできるだけ高くという意味で、承認欲求や賞賛欲求が非常に高いと考えられます。
その意味で自覚されているのは「相手のためを思って」のことでも、背後に自分の素晴らしい価値を『白雪姫』に登場する鏡のように常に写し返してくれる鏡映自己対象欲求に基づいたものであることが窺えます。
ですから両者にとってプレゼントが歓迎されなかったことは、自分の価値(存在価値)が否定されたことに等しく、それゆえショックを受けてしまったわけです。
自分の自尊心のためゆえのプレゼント攻勢
また贈り物の目的が実は自分の承認・賞賛欲求を満たすためであり、それと同時に相手の都合を考える共感能力も乏しいため、それはもっぱら自分の都合(欲求)に応じてなされることとなり、それゆえ武内のような会うたびに贈り物をするプレゼント攻勢のようにもなりがちです。
歯止めがかかるとすれば経済的・時間的な制約くらいではないでしょうか。
もっとも承認・賞賛欲求の満たす手段は他にもありますので自己愛的な人すべてが贈り物好きというわけではないでしょうが、自己愛講座1の自己愛性パーソナリティの定義で示しましたように、自己愛的な性格構造の人は生きる上で必要な自尊心をもっぱら他人からの肯定的な評価に頼る傾向がありますので、承認・賞賛欲求自体は必然的に高くなりがちです。
今回は両者の共通点として、贈り物好きである点と、その背後に働いていると考えられる承認・賞賛欲求の高さを取り上げましたが、次回は「両者の違い」について書かせていただく予定です。
追伸)今回の記事の批判の対象となっているのは贈り物をすること自体ではなく、それが相手の都合にお構いなく行われる点であったり、その行為にあまりに高い価値が置かれるあまり、他のことが些細なこととされてしまう点などです。