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ロジャーズとエリクソン、治療的要因の認識の決定的な違い

昨日の投稿「ミルトン・エリクソンの心理療法-出会いの三日間~個別的なセラピー実践のための手引き」でカール・ロジャーズとミルトン・エリクソンのスタイルの違いについて書きましたが、その違いを生んでいる最も大きな要因は、治療機序(クライエントが良くなって行く過程)に対する認識、およびそれを生み出している信念の違いにあると思われます。

誰にでも共通する治療的要因があると考えたロジャーズ

ロジャーズは共同研究者のユージン・ジェンドリン(フォーカシングの創始者)らと共に大規模なカウンセリングの調査を元に「共感的理解」「無条件の受容」「自己一致」というカウンセラーに必要な3条件を見出しましたが、このような調査を行った目的は成功したカウンセリングに共通する治療的要因を見つけ出すためでした。

これはいたって常識的な考えに思われるかもしれませんが、このような調査を行う動機の背後には「どんな人にでも共通する治療的要因があるに違い」という信念が存在しています。
なぜならもし治療的要因は人それぞれに異なると考えたならば、このような共通因子を探ろうとは決して思わないはずだからです。

ですから極論すれば、ロジャーズは人間の心の治癒あるいは成長の形には、ある決まったパターンがあるに違いないと考え、それを見出すために研究を重ねたと考えられます。
今日興隆を極めるエビデンスという考え方も、このロジャーズと同じ信念のもとに形成されたものです。
そこで重要視されているのは共通点であり、個人差ではありません。

治療的要因は人それぞれに異なると考えたエリクソン

一方のエリクソンは、ロジャーズとは逆の考え方をしました。
昨日紹介した「ミルトン・エリクソンの心理療法-出会いの三日間」の序文には次のように書かれています。

患者は、個々のニーズやそれぞれ独自の防衛によって動機づけられているので、伝統的で創造力を欠いた型にはまった対応よりは、その人個人に合ったアプローチを必要としていた。

この一文はエリクソンが治療的要因は人それぞれに異なるため治療的要因に関するエビデンスなるものは存在せず、むしろ個々人によって異なるため、その個々人にユニークな治療的要因に合わせて介入方法も変えるべきだと考えていたことを示していると思われます。

以上のように治療的要因に対する両者の決定的な考え方の違いが、昨日の記事のカウンセラーの(唯一存在する)理想的な態度を想定し、その理想的態度を身に付けるためにトレーニングに励む必要性を説いたロジャーズと、そのような画一的な態度やトレーニングを一切否定し、クライエントの利益のために(極論すれば一切の理論的前提を捨てて)出来るだけ柔軟に振る舞う必要性を説いたエリクソンとの違いを生み出しているのではないかと考えられます。

参考文献:ジェフリー・K・ザイク著『ミルトン・エリクソンの心理療法-出会いの三日間』

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